あらすじ
数十年振りに阪神タイガースが優勝、日本一を決めたこの夜。道頓堀周辺は異様な空気に包まれていた。
『立ち止まらないでくださーい。と、飛び込まないでくださーい』
警備及び交通整理に動員された警官隊、その手に持つスピーカーからの呼びかけは風と共に人々の肌を撫でる。道頓堀の両脇、柵の内側。そして上にかかる橋にはズラッと彼ら警官隊とマスコミ勢がカメラを構え並んでおり、さらにその三列目、四列目は野次馬たちがその瞬間を収めようとスマートフォンのカメラを向けている。
「あ、ちょっと通してくださーい。へへっ、今からこいつが飛び込みま――」
「馬鹿っ、やめろ!」
咄嗟におれは一緒に来た友人の口を塞ぎ頭を押さえ、まるで護送される犯人と警官のように身を屈めた。
数秒の静寂。揺らいだ空気が元に戻ったと研ぎ澄ました感覚で感じ取ったおれは大きく息を吐き、友人から手を離した。
「おいっ、なにするんだよ、人がせっかくよぉ」
「馬鹿野郎っ、この異様な空気を感じないのかよ……」