あらすじ
「この程度のアリバイ工作で警察を騙せると思った木下社長も、大甘だね」
傍らに座る可不可に言うともなく言うと、
「しょせん欲に駆られて、じぶんに都合よく考えた殺人計画など、砂上の・・・、ああ、何と言いましたっけ?」
「砂上の楼閣」
「ああ、その砂上の楼閣です」
可不可はすまし顔で言った。
【「売られた花嫁(大団円)」より】
「われわれは、木下社長のアリバイ作りにとことん利用された。まったく甘く見られたものだ」
今さら憤慨してもせんないことだが・・・。
「オートタイマーなどではないです」
可不可が口をはさんだ。
「へえ、オートタイマーではないって?」
【「売られた花嫁(その47)」から】
ロープを首に巻いたMIKIは、両手をだらりと下げてチャペルの尖塔から吊り下げられていた。
ジャンプして飛びつこうとしたが、裸足の足にわずかに届かない。
ぴんと張ったロープが、チャペルの尖塔の十字架から裏へ垂れているのを確かめ、教会の裏手へ回った。
【「売られた花嫁(その46)」から】
深夜零時を過ぎたころ、MIKIから、「殺される」と、SOSメールが来た。
GPSポインターは目黒あたりを指していた。
「誰に?どこで?」
と折り返したが、返事のメールはなかった。
電話をしたが、電源が切ってあるというお定まりのロボット音声が流れるだけで、まるで通じない。
【「売られた花嫁(その45)」から】
「辻本氏の1億円の保険金ではないですが・・・」可不可がやっと重い口を開いた。
「成瀬氏が死んだら、木下氏令夫人が全財産を受け継ぐということですよね」
そのことばに、思わず「あっ」と叫んだ。
【「売られた花嫁(その44)」から】
「でも、無理矢理飲ませてから自殺に偽装して吊り下げたとも言えます。警察は、その鍵がMIKIさんの貞操帯のものとは知らなかったのですから」
と反論する可不可と言い争ってもしかたがないと思い、
「でも、MIKIさんを無罪放免した」
と言うと、
「代わりに木下氏を取り調べ中です。自殺ほう助の線はまだ残っています。それと誰が火を点けたかは未解明です」
と、可不可はここでも反論した。
【「売られた花嫁(その43)」から】
「辻本さんは、小さな鍵を飲み込んでいました」
「ああ、それって、目黒のチャペルで挙式したとき、神父さんが天国に入る鍵だと言って辻本さんに渡したものです」
「天国への鍵ですって?」
「じつは、それは木下社長がMIKIさんに穿かせた貞操帯の鍵です」
「貞操帯の鍵?」
今度は、泉田刑事が驚く番だった。
【「売られた花嫁(その42)」から】
「焼死というのは、肺に煙か火が入って死ぬ状態を言います。辻本さんの肺には煙も火も入っていず、19時から20時の間に窒息死したようです。火が出たのは、21時半ぐらいです。この意味は分かりますよね?」
泉田は相変わらず小さな声で言った。
【「売られた花嫁(その41)から】
しばらくすると、殺された浪人生の前橋の父親が100万円を送金してきた。
「この100万円はもらえないよ。内海嬢はまだ重要参考人で、逮捕されたわけでもないし、推定無罪もいいところだ」
と、うれしさのあまり、うっかり口を滑らせると、
「裕史さん、何をかっこつけてるんです。逮捕につながる情報提供でお父さんは喜んでいるはずです」
危うく、可不可にどやされそうになった。
【「売られた花嫁(その40)」から】
「夫人が15時にやって来ることを犯人は知っていて、タイマーだかリモートの時間を14時50分に合わせていた。夫人に、成瀬氏の殺人を発見させたかったからだ。それひとつとっても、夫人は犯人ではないということが分かる」
【「売られた花嫁(その39)」から】
「逆説的に言えば、もっとも確かなアリバイがある関係者が犯人か?」
「それって、木下社長、辻本氏、内海秘書、MIKIさんの4人です。でも、4人が4人とも千葉で13時から15時ぐらいまでゴルフをしていた確かなアリバイがあります」
【「売られた花嫁(その38)」から】
「演技とは考えられませんか?」
「う~ん。あれが演技だろうか。夫人は僕に尾行されていると知っていた。見られているのを知っていた割には、・・・とても演技には見えなかった。半狂乱といってもいい」
「では、夫人は放火しなかった?」
「そう考えるのが自然だろう」
【「売られた花嫁(その37)」から】
「MIKIというホステスが、その社長の愛人ということは分かるが、社長秘書も愛人ということですか?」
「そこは知りませんでした。でも、MIKIさんは、木下社長に奥さんがいるのを知りながら、社長と結婚すると公言しています。秘書の内海さんも愛人だとすると、辻褄は合います。社長の妻の座をかけた愛人同士のバトルです」
【「売られた花嫁(その36)から】
「そこまでは・・・。ただ、今日結婚式をあげたカップルが、どうしてトラブルになったかを何度もきかれた」
「どこまで話したのです?」
「特には何も・・・。毎日警察署に来てもらうので旅行とか遠くへは行かないように念を押された。これって逮捕されるわけ」
【「売られた花嫁(その35)」から】
「そうよ。それはよく分かっている。でも、それとこれは別よ」
「もしかして、木下社長と結婚するために結婚したなんて告白したんですか?」
「まさか、そんなこと口が裂けたって言うもんですか。ただシンプルに結婚はできないって言っただけよ」
【「売られた花嫁(その34)」から】
MIKIはビールを呷ってから、遠い昔のシーンを思い返すようにしてしばらく黙っていた。心肺停止で病院に搬送された辻本が死亡したと報じ、死因は窒息死とあって、暗に首吊り自殺をほのめかしていた。
辻本は、家に火を点けると同時に首でも吊ったのか?
出火したのは昨夜の9時半ぐらいだった。
MIKIから連絡があったのは、10時すぎだったので、その間MIKIは木下社長と何をしていたのだろう?
【「売られた花嫁(その33)」から】
結婚式のあった日の夜10時過ぎに、MIKIからSOSのメールがあった。
「蒲田の家が火事になって、木下社長の車で向かっている」
と短いメールが来ただけで、あとは何の知らせもなかった。
【「売られた花嫁(その32)」から】
夏の盛りが過ぎようとするころ、目黒の住宅街の中ほどにある小さな池の端の小さなチャペルで、辻本とMIKIのささやかな結婚式が行われた。
列席者は、辻本とMIKIはもちろん、木下社長夫妻と社長秘書の内海嬢とそれに私の6人だけだった。
【「売られた花嫁(その31)」から】
「奥さんを平気で成瀬氏に性奴隷として差し出しておいて、愛人を花嫁として経営パートナーに売りつける。いやはや、とんだ人間の皮をかぶった悪魔だね」
【「売られた花嫁(その30)」から】
「辻本さんが、死亡時受取人をMIKIにした1億円の生命保険に加入すれば、貞操帯の鍵を渡すと社長さんが言ってるの」
MIKIは、応接間のソファーに座るなりそう言った。
「木下社長が直接辻本さんへ?それとも、MIKIさんが辻本さんへ伝えた?」
「さりげなく、私が・・・。辻本さん、すぐに保険に入ってくれた。いいひとね」
MIKIは、こんな話をするために、わざわざ蒲田から郊外のこの家までやって来たのだろうか?
【「売られた花嫁(その29)」から】
辻本は、結婚初夜に貞操帯を着けた花嫁に驚いたが、MIKIを責めるでもなく、意外と冷静だった。
恋愛結婚ではなく、20才近い年齢差もあったので、お互いに愛情が持てるまではしかたがないと現実を受け入れたのかもしれない。
【「売られた花嫁(その28)」から】
「SOSで駆けつけたら1万円!」とおどけて答えると、
「これから先、何があるか分かりゃしないから…」MIKIは、じぶんの暗い未来を予告するかのように、真顔で言った。
【「売られた花嫁(その27)」から】
「他人さまの下着を盗まずとも、言ってくれれば、女の下着など、それこそ毎日でも、宅配便で送り届けてやったのに」
息子のアパートを引き払い、警察に挨拶をしてからここへやって来た浪人生の父親は、ひとしきり嘆いた。
【「売られた花嫁(その26)」から】
「社長さんは、これを着けて花嫁になれと言うのよ」
酔ったMIKIは貞操帯の豪華なカタログをテーブルに置いた。
・・・可不可が興味深げに見ているのがおかしかった。
【「売られた花嫁(その25)」から】
「馬鹿ねえ。離婚するのが分かっていて、結婚するするひとはいないでしょう」
これだと、MIKIの方がよほど馬鹿だということになる。
結婚する相手が可哀そうになった。
「じゃあ、ここも引き払うのですか?」
首をひねりながらたずねると、
「う~ん、どうしようか。・・・ここにいて、仕事も続けようかな」
・・・ますます結婚する意味が分からない。
【「売られた花嫁(その2)」から】
「それだと、夫人は犯人と遭遇しています」
「たしか、夫人が逃げ出すと同時ぐらいに2階で火の手が上がった!」
「・・・それか、夫人が逃げ出してから放火したか、です」
【「売られた花嫁(その23)」から】
「二階の寝室へ行くと、成瀬さんは椅子に縛りつけられていた。その時はまだ生きていたのですか?」
「それがはっきりしません。口と目はテープで塞がれて、首をうなだれてぐったりして・・・」
「報道では焼死とあります。警察は何と言っています?」
夫人は遠くを見るような目をしたが、何も答えなかった。
【「売られた花嫁(その22)」から】
「愛人ではありません。玩具でした」と、夫人はきっぱりと言った。
だが、「でも、夫のためにそうしたのです」と、夫人は言い訳がましいひと言を付け加えた。
【「売られた花嫁(その21)」から】
数日すると、木下社長夫人から電話があった。
自宅にコーヒーでも飲みに来ないかという誘いだった。
すぐに、可不可をオンボロ車に乗せて、どんよりと曇る昼下がりの都会の街を横切って目黒へ向かった.
【「売られた花嫁(その20)」から】
終電を降りてしばらく歩いた暗い道で、ヘッドライトを消した車にひき殺されそうになったMIKIは街路灯の明るい駅前広場にもどった。
だが、それらしい車は、あたりには見当たらなかった。
【「売られた花嫁(その19)」から】
事件の翌日、木下社長の怜香夫人はみずから所轄署に出頭した。
『成瀬に呼びつけられて等々力の屋敷に出向いたが、二階の寝室の椅子に縛りつけられている老人を見つけたところ、不意に出火したので、あわてて逃げた』
と夫人は警察に証言したと犯罪ネットにはあった。
【「売られた花嫁(その18)」から】
「木下社長には、じぶんの車に乗せてもどって来たとは言わずに、夫人は等々力から15時25分に家にもどったとシンプルにメールで伝えた。だいぶ経ってから、『お疲れさん。帰っていいよ』と返事があった。木下社長のGPSポインターは、千葉から1ミリも動いていないので、ゴルフで忙しかったのだろう」
【「売られた花嫁(その17)」から】
「あのお屋敷の火事で、ひとが死んだようです」
携帯の画面を向けると、夫人は寒気を感じたように両腕でからだを抱きすくめた。
「どうされます。今から、警察に届け出ますか?」
学生アルバイトと軽く見られた仕返しに、年長の夫人をいたぶってやろうという気になったのが、不思議だ。
【「売られた花嫁(その16)」から】
ドレスアップして大きなサングラスをかけた夫人は、タクシーを降りると、多摩川土手通りの大きな洋館の中に消えた。
【「売られた花嫁(その15)」から】
すぐにあとをつけた。おそらく木下社長は、それを知っていて、じぶんに尾行させてGPSポインター代わりに使っているのだろう。
だが、盛り場のクラブなどで連日連夜遊びまくるが、それを夫人に事前に伝えて律儀に実行はしても、ホステスをアフターなどに連れ出さずに真っすぐ家に帰る。
これは何だろう?
【「売られた花嫁(その14)」から】
世の中には、やたら結婚をちらつかせて女を口説く性悪な妻帯者も、それこそ星の数ほどいるらしい。
たしかに、横に座るMIKIは、女学生のような可憐な顔をしていて、それでいて、ふくよかなからだの魅力的な女だが、・・・いかにも騙されそうな気のいい女に思えてならなかった。
【「売られた花嫁(その13)」から】
「でも、ずいぶんね。お医者さんをめざす学生さんが介抱もせずに、下着だけ奪うなんて」
「彼は浪人生で、まだ学生にもなっていません。それに、あなたは酒臭かったので、酔っ払い女が寝込んでいると思ったのかもしれません」
「でも、誰が私を殺そうとしたの?」
【「売られた花嫁(その12)」から】
「・・・結婚したら、お金が入るから、そこから払ってもいいわ」
半ば冗談めかせたMIKIの申し出にも黙っていると、
「結婚したらお金が入るのよ。・・・つまり、私は、売られた花嫁ね」
とMIKIは悲しそうに言った。
【「売られた花嫁(その11)」から】
木下社長のGPSポインターは新宿で動かなくなったが、夫人のポインターも目黒から動かない。
・・・携帯を自宅に忘れたのか、それとも意図的に置いてきたのか?
木下社長に言われたように、夫人がマンションを出て新宿方面に向かっているとメールを入れたが、既読にはならず、返信もなかった。
【「売られた花嫁(その10)」から】
「MIKIさんを尾行するのですか?」
とたずねると、
「何でそうやって勝手に決めつける。最後までひとの話を聞けよ!」
と怒りだした。
怒りがおさまると、しばらく黙っていたが、
「うちの奥さんだよ」
ブロンズの彫刻のような黒光りする顔を目の前に寄せた木下社長は、うめくように言った。
【「売られた花嫁(その9)から】
「MIKIが言っていたスーパードッグとは、この貧相な犬かね?」
と向かい合ったソファーに座るなり言った。
仕立てのよいダークスーツを鎧のように着た木下は、俳優のようにかっこよかった。
威圧するように見つめる目は情熱にあふれ、ゴルフだかで日焼けした精悍な顔には、そこはかとない男の色気があった。
【「売られた花嫁(その8)」から】
「だいいいち、パパには奥さんがいるのよ」
「日本の法律では、奥さんがいるひとと結婚はできないことになっています」
「馬鹿ねえ、そんなこと子供だって知ってるわよ。結婚できないのに、ライバルたちが結婚話を聞きつけていろいろ邪魔をしてくる。・・・私、殺されるかもしれない」
【「売られた花嫁(その7)」から】
読んでいた本を閉じて窓を開けると、あの浪人生に下着を奪われた若い女が目の前に立っていた。
「頼みがあるのよ」
と女は言った。
【「売られた花嫁(その6)」から】
「浪人生は、部屋にもどるとすぐにズボンを下してオナニーをはじめた。そこへ犯人が侵入した。・・・いや待てよ。いくらなんでも、オナニーをするときは部屋の鍵は締めるよね」
そう言い出しておきながら、すぐにじぶんの考えを変えた。
「犯人が浪人生を殺してからそんな恰好にした、の方が確率は高いと思います」
・・・可不可の言い分にうなずくしかなかった。
【「売られた花嫁(その5)から】
下着泥棒は、奪ったばかりのホステスの生下着を頭にすっぽり被ってオナニーをし、興奮しすぎて心臓麻痺で死んだとばかり思っていたので、
「事故死だったのではないですか?」
とたずねたが、ふたりの刑事は何も答えようとはしなかった。
【「売られた花嫁(その4)」から】
「それより、あの下着よ。・・・大事なお客さまからいただいたものなので、困るわ」
と女は同じ話をくどくどと繰り返した。
家の前まで来ると、泥を拭ったタオルも可不可を借りた礼も何も言わずに、「じゃあ」と手を振った女は、すこし先のじぶんの家へすたすたと歩いていった。
【「売られた花嫁(その3)から】
合図をすると、可不可は女のスカートの中に潜り込んだ。
「きゃっ、エッチな犬」
女が押しのけるより早く、可不可は女のスカートを抜け出すと、猛烈な勢いで駆け出した。
【「売られた花嫁(その2)から】
「変な痴漢ね。押し倒しておいて、パンストごと奪って逃げたのよ」
泥を拭ってもらった礼も言わず、女はただ怒り続けていた。
たしかに、駅からこの辺にかけて、最近痴漢が出没しているので注意を呼び掛ける回覧板が回って来ていた。
・・・それも、この女が遭遇したように、下着だけを奪う変態野郎の痴漢のようだ。
【「売られた花嫁(その1)」から】