あらすじ
池袋にて退去させられたばかりの母の姿がそこにはあった。
この記述へと繋がる筈であったが、この時の母の精神は。
子供を育てた。育て上げようとした。この言葉に齟齬はない。
この時の母の姿は、悲しげであり、成し遂げたとも言い難い。
そんな顔をしていたように思う。この小説では、この母に焦点を合わせている。
厳しい姿の母の顔。今、子供を盗まれたかのような面影。
彼女は、悲しいのではない。それは怒りに満ちていたのではないだろうか。
子供は親を選べないと前書では述べたが、親もまた同じではないかと思いを馳せた。
子供を選べたら、お母さんは、わたしを選んだのでしょうか。
この時の母の年齢は、37歳であった。名前を『みつ』という。
22歳にて子供を患って以来、その手には、子育てと教育の文字が蹲っていた。
本来は、子供を宿すと書くのだろうが、母が本当に幸福だったとは思えない。
今まさに女は、自らの宿した子供を難攻不落の土地へと盗まれようとしていた。
何時返却されるかもわからない場所だ。そこで確かに子供は大きくはなった。
これまでの母の生甲斐をすべて奪ったのは、その子供との些細であるが、
決して許せない逸脱行動にある。その子供は親の顔に恥をかかせて、
今まさに何処ともわからぬ土地へと移送されようとしていた。
逞しくも美しく、これまで数度となく子供を施設へ預けなければならない親の覚悟とは。
やっとの思いで束の間の休息を得たのに、また子供を失う親の悲しみとは。
それは、セカンドレイプに似た、何かであったに違いない。