あらすじ

その日、日本中のあらゆる映像メディアを通じて、内閣総理大臣による緊急記者会見の様子がライブ配信されていた。 いつも眉間に皺を寄せている重田首相は、持ち前の低い声で事態の深刻さを語る。 『そのウィルスに感染すると思考が楽観的に――つまりポジティブになってしまう、と。そんな危険なウィルスが今、世界的に蔓延しているのであります』 ポジティブ・ウィルス。 一週間ほど前、米国に突如として現れたその新種のウィルスは、人間の考え方を強制的に前向きなものへと書き換えてしまうらしい。しかし当初はそれを誰も深刻に捉えていなかった。 『ポジティブなのは良いこと、ですか? それは事態を軽く見過ぎだ。そんな悠長なことを言っていられる段階はとうに過ぎているのです。この一週間だけでも、交通事故の増加。工場災害の多発。行方不明者の続出。一部地域では停電の復旧目処も立たず、このまま感染が進めば社会は…………たぶん大丈夫』 重田首相の頬が、急に緩む。 その首をよく見れば、何かに噛みつかれたような痕がついていた。 『根拠はありませんが、たぶん大丈夫であります』 いつも悲観的な展望を語ってばかりいた首相の、あまりにも突然の変化により……皮肉にも、日本人はポジティブ・ウィルスに対して強烈な危機感を抱くようになった。

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小説を読もう2024/03/08
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