あらすじ
「今日初めてのダンジョンにお客さんがやって来ました」
なにしてんねん、このオッさん。……父親が動画を撮影をしていた。
息子の俺からしたら父親のユーチューブ撮影っぽいのは見てられなかった。
しかも俺はお客さんじゃない。
頼まれてダンジョンに入って来ただけである。
ちなみに父親のことを俺はオッさんと呼んでいる。
小学生の時はお父さん。中学になればオトン。そして高校になればオッさんになる。
「それじゃあ初魔王やっていきまーす」
とオッさんがアイフォンのカメラに向かって喋っていた。
何が初魔王やねん。
かなりキモい。
「よくぞ来たな勇者よ」
と父親が言った。
「来たもクソもないやろう? まだ一階層目やろう? 魔物にも出会ってへんねんけど」
「魔物などおらぬ。そして一階層目で最終層である」
と魔王っぽく100キロの巨漢の父親が言った。
「一階層しかなくて、魔物もおらんかったら、それはただの物置やん」
と俺は言った。
「お前に世界の半分をやろう。だからワシの部下にならないか?」
と父親が言う。
「なんかセリフ古くない? 絶対にオッさんごとぎが世界を牛耳れるわけないやん。物置しか作られへんねんやから」
と俺が言う。
「物置って言われました」
と父親がアイフォンのカメラに向かって喋った。
「それやめろ。何を撮影しとんねん」
と俺が言う。
「ユーチューブを撮影してんねん」
と父親が言った。
「やめろ。50を越したオッさんがユーチューブ撮影とか見てられへんわ」
と俺が言う。
「言っとくけどバズらな死ぬんやで」
と父親が言った。
「バズらな死ぬ50代のジジィなんて、早く死んでしまえ」
と俺が言う。
うっ、とオッさんが胸を押さえた。
「こんなにすごい攻撃を持ってるとわ。やられた」
とオッさんが死んだフリをした。
「社会の荒波に揉まれてきた50代のジィジィが精神的ショックで死ぬな」と俺が言う。
「そして世界は勇者に守られたのだ」
と父親が死んだ状態で、ナレーションみたいに言った。
本当に最悪である。
「もしかして、このダンジョンを運営して冒険者を入れようとしてる?」
と俺は尋ねた。
父親はそのつもりだった。
会社が倒産して無職の父親が家の庭でダンジョンを作り始めた。
俺はイジメられて1週間だけ引きこもり、姉は失踪中。
もう半年分の生活防衛資金しかないと母は泣き、妹は将来が不安で震えていた。
半年後には家を売ってリアルに家族解散である。
50代を越して中小企業で勤めていた父親の再就職は不景気もあって難しいらしい。
家族が解散する前に父親はダンジョンで魔王になって死ぬことを計画していた。ダンジョン経営で死ねば保険もおりるし、家のローンも無くなる。
そのために父親はダンジョンを作ったのだ。
だけど父親が死んでハッピーエンドなんておかしくないか? と息子の俺が思う。だからダメ親父が作ったダメダメダンジョンを本気で運営して、俺が家族を守ることに決めた。