あらすじ
クレーベル伯爵家においては、かねてから第一当主アーレットの婚約相手探しに躍起になっていた。というのもこの男にはリリナという妹がいるのだが、彼は彼女ばかりに気をかけ婚約相手など気にもかけないばかりか、かえって迫害する一方であったためだ。
アーレットの周囲の人々もまたその異常な事態には感づいていながらも、自らの保身のために誰も真実を口にすることはしなかった。そう言ったことが繰り返されてきた今になって、ようやくこの理不尽な事態に終止符が打たれようとしている。
――エラーテル視点――
「エラーテル様、あなたにはここを去っていただきます。これはアーレット様の決定であり、他の者たちもみな賛同しています。ゆえにあなたにこの決定を拒否する事はできません」
婚約者候補として連れてこられたかと思えば、一方的な追放…言いたいことはたくさんあるけれど、私に反論は許されていなかった。
「聞けばあなたは、アーレット様の妹君であるリリナ様を水面下でいじめていたそうではありませんか。彼女からも痛々しい報告を受けています。もうこれ以上我々の事をかき乱すことはやめてもらいましょうか」
嘘だ。この人たちはみんな真実を知っている。現実に嫌がらせを受けているのは私の方だった。リリナとアーレットは自分たちの権力を盾に、こうして力なきものを攻撃してやまないのだ。
そして私への非難がある程度落ち着いたころ、アーレット本人が私の目の前に現れた。
「今この場で僕の靴をなめるでもしたら見逃してやってもいいぞ?ただの女である君にとって、僕の隣の席は喉から手が出るほど欲しいものだろう?どうせこの先生きていたって二度と座ることのできない席だ。…さあ、どうする?」
笑みを浮かべ名がらそう言葉を発する彼には、底知れぬ自信が見て取れる。きっと私が泣きついてくると信じて疑っていないのだろう。周囲の人々もまた同じだ。私がどういう出方をするのかを、楽しみながら見ていることだろう。それは間違いなくリリナも同じで、このいきさつをどこからか見ているに違いない。