あらすじ
婚約破棄された悪役令嬢の私は、お妃教育をし直す羽目になった
「やっぱり婚約破棄はひどいと思うの」
「お嬢様……それ何回目ですか?」
レタが私の言葉に呆れ顔で返す。私は冷め切った紅茶の入ったカップを手に取り、それを口元に持っていきながら小さく肩をすくめた。
「だって、仕方なかったとはいえ、悪役令嬢にされて悪役令嬢として断罪されるのよ? その上婚約破棄までされて……こんなにひどい話はないわ」
「……まぁ、確かにそうですけど……」
私が言うと、レタは何とも複雑そうな顔をしてこちらを見た。
私が今いるのは、王都から少し離れたところにある避暑地の別荘だ。父は現宰相で、今はかなり忙しい身ではあるけれど、それでも仕事の合間にこうして休暇を取っては家族で過ごす時間をくれる。そんな父がこの別荘を提供してくれたのだが、使用人の数は最低限にするというこだわりっぷりだ。まぁ確かに人数は少ない方がこぢんまりとして過ごしやすいし、何より身の回りのことはほとんど自分でやらなければいけない分気楽だという利点があるのだけれど。
そして、その避暑地には避暑シーズンではない時はレタがいつもついてきてくれている。私も最初はお父様やお母様に休暇をとってもらおうと思ったのだけれど、二人とも「休んできなさい」の一点張りだった。きっと私がいなかったらもっと仕事の時間も長くて大変なのだろうと思うと、それ以上我儘を言うのは憚られた。
それに、レタと二人きりで過ごすというのも新鮮で楽しかったので私としては満足している。使用人もいるとはいえ、私と二人しかいない状況でずっと過ごしていたらこうはならないだろう。
「……それにしても、悪役令嬢か……もう聞き飽きました」
レタが溜息混じりに言うので、私は苦笑しながらカップを置いた。確かにレタは私が悪役令嬢だなんだのと愚痴を零す度に付き合ってくれている気がする。いや、愚痴と言うよりは独り言の方が正しいのかもしれない。
「でもやっぱり、悪役令嬢だなんて嫌じゃない?」
私が言うと、レタは困ったように笑いながら頷く。そして少しだけ考えたような素振りをしてから口を開いた。
「そうですねぇ……まぁでも、悪役令嬢というのは、お嬢様にお似合いだと思いますけど」
「えっ?」
意外な言葉が返ってきたので、私は思わず聞き返してしまった。レタは冗談を言うような子ではないし、私を揶揄っているのでもないということは分かっている。それでもやはり聞き返さずにはいられなかった。
「どういうことかしら?」
私が尋ねると、レタは少し困ったような顔をしてからゆっくりと話し始めた。
「だってお嬢様は誰がどう見ても可愛らしくて可憐でお美しいじゃないですか! そんな方に悪役だなんて言われる筋合いはないというか……」