あらすじ
――東の果てで、霧の魔女が死んだ。
それはアルスーン王国とエルドナ魔族連合王国による、大陸全土を巻き込む戦争が終結した事を意味していた。
山岳に囲まれたとある辺境の村では、その翌日に終戦を祝う夜会を開催する運びとなった。自給自足で成り立つこの村で、それぞれが自分に任された役目を全うする中、双子の少年“スノウ”と“レイン”は重大な役割を任される事になる。それは卵を運搬するという事ともう一つ、ピアノを演奏するという事だった。
長く苦しかった戦争の勝利での幕引きを喜びながら、小さな村の全員が一丸となって夜会の準備に勤しむ。じきに王国に徴兵された村の男たちも帰って来る。誰もが明日を疑わず、牧歌的に過ぎる一日を笑い合い、近い将来に訪れる筈の未来に瞳を輝かせていた。
……ただ一つ、魔女が死に際に残したという大地への呪い――“死の霧”の事だけが彼女たちの不安の種ではあったが、旧世紀より授かり受けた楽譜とグランドピアノ、そして天性の才覚を持ったスノウの奏でるピアノの魔法によって、村人は心の平静を保ちながら明日を夢見て眠る事が出来た。
この村に生きる全員が、そしてこの世界の何もかもが……一日毎に全てを忘却しながら、何百何千回と“今日”を繰り返しているとも知らずに。
この世界の住人は……同じ空の下で、同じ者同士が、同じ顔をして、同じ事を話し、同じ事を思考する。まるで一つの舞台を演じ続けるマリオネットの世界だった。
しかし、とある偶然によって忘却してしまった“過去の自分たち”からのメモを受け取ったレインとスノウは、魔女の呪いを解き放ち、未来を掴み取る事を決意する。
これまでに判明している九つの呪いのルールを検証し、新たな法則を模索していく二人。スノウの奏でるきらびやかな旋律の中で、レインは思考し続ける――
やがて彼らは、自らを魔導商人と名乗る怪しき仮面の男“イルベルト”と、魔族の娘と忌み嫌われるエルフの少女“リズ”と手を取り合う。
ある者は不変を願いながら。
ある者は変化を願いながら。
ある者は空虚に支配されながら。
ある者は卑屈に俯きながら。
――この刻の牢獄の中で、未来を求めて彷徨い続ける。
この呪いの先に、耐え難い真実が待っているとも知らずに……。