あらすじ
「クラリス、お前のような悪名高き聖女とは一緒に暮らせない。俺との婚約を破棄してくれ」
黒髪黒目の麗人であるハラルド王子が冷たい言葉を放つと、クラリスの瞳から涙が零れた。
王子との出会いを思い返す。戦争で怪我をした兵士たちを治療するために、聖女として診療所へ派遣されたことがキッカケだった。
王子はお忍びで兵士たちのお見舞いに来ていた。クラリスが魔術で治療をしている間、瀕死の兵士たちの手を取り、必死に励ましていたことが印象に残っている。
彼はそれからも毎日のように診療所に顔を出し、彼女を見つけると少年のように無邪気な笑顔を浮かべた。
兵士たちの身体を拭いてやり、一緒に傷の手当てをする。共同作業は二人の心の距離を縮め、半年後には婚約を申し込まれた。
プロポーズの言葉は忘れたくても忘れられない。
『クラリスは他人の幸せが生き甲斐だろ。だからお前を幸せにする役目は俺に任せてくれ』
頬を紅潮させながらの愛の告白は何よりも嬉しい贈り物だ。この人と一生を共にしよう。彼女はそう心に誓った。
「あ、あの、私…っ……」
嗚咽が邪魔をして、言葉が声にならない。王子の怒りを鎮めようと必死に作り笑いを浮かべる。
「……っ……わ、私、きっと何か怒らせるようなことをしたのですよね。謝りますから……どうか傍に置いてください。私はあなたさえ傍にいてくれれば、それだけで幸せなのです」
他人の幸せばかりを求めてきたクラリスが唯一欲した望みだった。だが伸ばした救いを求める手は、払いのけられてしまう。