あらすじ
婚約者のハインツは、あたしの手を取って言った。
「君こそが私の運命だ」
相手はとびきりの美男子だ。たとえば、これが本当に運命なら、私の心も躍っていただろう。拳一つ分くらい浮いていたかもしれない。あ、間違った今は「あたし」だ。
そういう設定にしたのだから、全うしなければ。
でもね、この運命.......っていうのがそもそも勘違いなのよね。運命なら、気づいているはずなのだ。
私が変装したあなたの婚約者だって。
でも彼は私の本当の姿に気づかない。まだ二度しか会っていない名も知らない女だと信じているのだ。
「そんな……困ります。だって、ハインツ様には婚約者がいらっしゃるんでしょう?」
しおらしく俯けば、ハインツの手が強くなる。直訳すると、『婚約者がいるのに他の女を口説くなよ』である。しかし、浮かれた男は気づかない。
あたしの正体にも、この直訳にも。
「確かに婚約者はいる……だが、あれは親が決めたもので私の意思ではないんだ。私が愛しているのは君だ」
「まだ出会って二度目ではありませんか。それで愛しているなんて言われても」
「時間なんて関係ない。ひと目みた瞬間から君に心を奪われていた。だから、また会いたくてここにいる」
ハインツはそう言って、あたしの顔をのぞき込む。返事をためらっていると、ハインツはあたしを抱きしめた。
「お願いだ……私の運命」
変装しているとはいえ、婚約者からは甘い言葉を向けられると同時に、実は愛されていなかったことが判明するとはこれ、いかに。滑稽もここまで極めると、笑いすら起きなくなる。
なんで、こんなことになってしまったの?
私は彼の腕の中、綺麗な青空を見上げる。まるで私をあざ笑うような快晴だった。