あらすじ
ルフォン城に入ったときから、異様な雰囲気は感じていた。暗くはないけれど、冷たさに満ちている。
しあわせな花嫁であるはずの姫を取り巻く、突き刺さるような冷たい視線。非難めいた、低いささやき声。まるで、国に帰れと言わんばかりに。誰もかもが戸惑っている、そんな空気がありありと漂っていた。謁見の場に到着しても、まったく変わらない。
国王のお出ましに、胸に不安をかかえながらも姫はしっかりと頭を下げた。自分の肩に、ふるさとの存亡がかかっている。次に顔を上げるときは、最高の笑顔で。
「初めまして。そしてようこそ、ディアナ姫。愛らしい姫さまの到着に、城を挙げて歓迎するよ。せっかく、遠路はるばる来てもらったのに、姫にいきなり言い訳するのも正直、複雑なんだがねぇ。いや、申し訳ないっ」
うつくしく正装したディアナだったが、驚きのあまり、王に許しを得る前に、ぴょんと頭を上げてしまった。無礼を咎められるかと思ったが、なんとルフォン国王がディアナに謝ってきた。
「恥ずかしい話、姫の婚礼相手としていた我が国の王太子が、あなたの到着するほんの少し前に、妃を娶ってしまってな。すでに夫婦として、神の祭殿で契約を交わしてしまったというのだよ。我が国において、神は絶対の存在。契約は、どちらか一方が死ぬまで続く。今さら花嫁を交換するわけにはゆかぬ。ほんとうに申し訳なかった」
王太子の、結婚。
それって、私とは婚約破棄ですか……ディアナは聞こうとしたが、うまく口が動かない。国を背負って婚礼に向かった地で、予想もしなかった仕打ちを受けるとは。