あらすじ
冒険者歴二十二年のベテラン冒険者シド・バレンスのパーティは、その日、重なりに重なった仲間たちの慶事によってあえなく解散と相成った――
心配そうに背中を見つめる仲間たちに見送られながら、やむなく古巣の町へと帰ってきたシドを待っていたのは、「おめえにやる仕事はねえ」という厳しい言葉。
そして、「ベテラン」というにはだいぶん悲しい、「経歴が長いだけの冒険者」という重苦しい現実。
なぜなら冒険者歴二十二年のベテラン冒険者シド・バレンスは、冒険者としてはかろうじて『一人前』と呼べる程度に過ぎない《銀階位(シルバー・ランク)》の冒険者。
それは一端の冒険者でこそあれ、それ以上の高みへ昇れるような冒険を果たせなかった冒険者ということ。
にもかかわらず、いつまでも《冒険者》という立場にしがみつきつづけた、みじめったらしい冒険者だということ。
銀の紋章は風雨に晒され汚れてくすみ、《くすんだ銀(オクシダイズド・シルバー)》と軽んじられる――シド・バレンスは、そんな冒険者だったのだ。
ああ。けれど。彼と共に冒険を越えた者は知っている。
彼が強く、剛く、そして誇り高くも心優しき冒険者であることを。
時に多くの人を救い。時に苦しむ仲間を支え。
時には、誰かのために事件のすべてを秘密の小箱へ封じ。時には、手柄を譲って誰かの夢の背中を押した。
《くすんだ銀(オクシダイズド・シルバー)》は、それゆえの――『記録に残らなかった』、冒険の証。
「おめえはクビだ。おめえはこんなちっぽけなとこにいちゃいけねぇ」
「おめえはおめえのための、自分のための冒険をするんだ」
「きっとシドさんでも、いつかはどこへも行けなくなってしまう日が、来るのだと思います。けれど」
「今は違う。そうではない――シドさんは遠いところにだって歩いてゆけるし、私はそれを羨ましいと思うんです」
そう――背中を押してもらったから。
心機一転。おひとよしのおっさん冒険者は、自分のための冒険を始めます。なるべくだけど。
その新たな行き先は、《大陸》の冒険者であれば誰もが一度は踏破を夢見る、最大・最難の大迷宮
――《箱舟’(アーク)》。
くすんだ銀は『いぶし銀』。
世界にとっては何者でもなかった、けれど幾許かの人々の記憶の中では確かに輝いていた。
そんな、無銘のおっさん冒険者は――今こそ未踏の大迷宮に、その練達の力を示します。