あらすじ
「親父……」
ボソッと、呟いてみても親父が死んだ実感は未だわかない。まだ生きているみたいだ、とまでは思わないが不思議な感じだ。多分、思っていたよりも葬式の準備が忙しいせいだろう。
……まあ、それはそれで気が紛れていいんだ。きっと。明日は通夜。親父をこの部屋から運び出さなければならない。親父も慣れ親しんだ我が家を離れるのは寂しいだろうが、仕方がない。
……それにしても通夜前に結構、人が訪ねて来るものだ。中には手土産、新巻鮭を渡してきた人がいて目を丸くしたもんだが、色々な人から俺が知らない親父の話を聞けてよかった。
……この人も今、親父の遺体の前で手を合わせ、どんな思い出に浸っているのだろうか。あとで聞いてみたいな……なんて、ああ、こっちもしんみりしてくる。……あ、そう言えばこの人、親父とどこで知り合ったかまだ聞いてなかったな。仕事関係か? 親父は昔から職を転々としてたからな。世話になったりしたりっていう知り合いも多いんだろう。それか学生時代の友人か、いや、歳は親父より少し下かな。
と、彼が和室に敷かれた布団の中の父親に向かって手を合わせる男の背中をジッと見つめた時だった。
男が振り返り、彼にニコッと微笑み、言った。
「……さてと、よし! じゃあ、あんたの親父さんの首を持ち帰っていいかな?」