あらすじ
「あともう少しだけ辛抱して欲しい…ここで婚約者の振りをしながら生活するのは大変だろうとは思う…だけどもう少しだけ、もう少しだけなんだ…」
私には、二人の婚約者がいる。言ってみれば一人は本当の婚約者、もう一人は偽りの婚約者、という事になる。
…いったいなぜこんなことになってしまったかと言うと…
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「どういうことグレイン…あなたと私は今すぐにでも婚約するはずじゃ…」
やや渋い表情を浮かべる彼に対し、私は抗議の声を上げた。
「もちろん、僕もそうしたいとは思っているんだけど、一つだけ頼みがあるんだ…」
どこか申し訳なさそうな口調で、弱弱しく私にそう言葉を紡ぐ彼。…まさか、お別れの話じゃ…
「…た、頼みって…?」
恐る恐る、私は彼に言葉を求める。…しかし彼の口から放たれた言葉は、私が想像だにしていないものであった。
「リフラール家を知っているね?言ってみれば、当家とライバル関係にある家柄だ。…そこに、君自身に潜入してもらいたいんだ…」
「!?」
…こ、この人は今何と言ったか…?
「あの家にはかねてから黒い噂がある。誰かに忍び込んでもらいたいのだけど、信頼できる人間にしかこんなことは頼めないんだ…男よりも女、誰よりも…君自身に」
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そのやり取りが行われたのが、今から1年ほど前。当初は1か月ほどで終わると言われていたのに、毎回言葉を濁されて、今や1年が経過した。