あらすじ
九州北部、某県と某県の狭間、内陸地に位置する地方都市、香ヶ地沢。 その北端の山間部という、これまた辺境の地に位置する村落、朽無村。 良く言えば自然に囲まれた、悪く言えば他には何も無い廃村寸前のその村に、介護が必要な老いた母親と二人だけで留まり続ける女、河津真由美。 まだ若く、どこか艶やかな雰囲気を纏った真由美に、東京で精神を病み、逃れるようにして香ヶ地沢へとやってきた介護支援専門員の僕——高津幸人は恋をした。 介護の末、とうとう母親が亡くなり、たった独りになってしまった真由美に、幸人は手を差し伸べる。 「あなたは、こんな廃村に留まっているべき人ではない。どうか、僕と一緒に来てください」 まるでプロポーズをするかのように、幸人は真由美を朽無村から連れ出そうとしたが、真由美はそれを頑なに断った。 「なぜです。どうして、こんな村に留まり続ける必要があるのですか」 食い下がる幸人を見て、真由美は、 「私は、この村から出て行くことができないんです。そのわけは、とても人の手でどうにかできるようなことではない、絶対的なものなんです。信じられないかもしれませんが……」 と、答えた。その不可解な言葉に引っ掛かるものを感じた幸人は、 「どうか、教えてください。どんなことでも信じます」 と、言い切った。すると、真由美は悩まし気な表情を浮かべた後、 「……分かりました。では、すべてをお話しします。私が、この朽無村に留まらなければいけない理由を」 そして、真由美は粛々と語り始めた。 自身の過去を。 自身が生まれ育った朽無村で起きた、忌まわしく、悍ましい悲劇の記憶を―――。 九州北部の田舎、限界集落を舞台にした、因習村ホラー長編ミステリーです。 主に、2000年代、2010年代初頭のノスタルジーと、洒落怖というジャンルに対してリスペクトを捧げました。 〝あの頃〟の懐かしさや、田舎の閉塞的な怖さ。そういったものを体感して頂ければ幸いです。