あらすじ
昔は十年一昔と言う言葉があった。しかし今では僅か一年で世界情勢が変化し、価値観も変化してしまう。たとえ中小企業でも世の中の変化に対応するべく藻掻いている。そんな中、武井のような還暦を目前にした中間管理職は皆必死に変化に対応し、先行きの不安と戦いながらやはり藻掻いている。昔は還暦をもって定年退職。後は年金暮らしの悠々自適にのんびりとした老後生活を計画する。なんて話を聞いたことがある。しかし今の年金制度は六十五歳が大きな区切りとなっている。即ち、五年間は多少待遇が悪くても我慢しながら働き続ける道を選ぶ人が多い。企業としては若手の育成が上手くいけば年配者には卒業してもらいたいのが本音であろう。ある日武井達に会社から、組織体制の大きな改革が発表された。管理体制の見直しである。県内を六分割にしてそれぞれに管理職を置いていたがその体制が廃止になると言うのだ。別部門に異動もしくは現場に戻る。又は転職を考える者もいた。武井は三十八年間営業一本でここまで来ている。他に何の取柄もない。そんな中、グループ内の保険部門から声を掛けられた。畑違いではあるが営業部長として再スタートを切ることになった。しかし、畑違いと言うだけではなかった。三十八年間の営業生活で全く出会ったことのない、経験したことのない異質な社長の下で働くことになってしまい翻弄されることになる。業績不振の保険部門の中で保険業界素人の営業部長と優秀ではあるが異質な性格の社長との格闘である。新米営業部長が業務改善の為に提案を進言しても全て却下。ほとんど瞬殺される。しかし数日・数か月後にはその提案が実施される事がしばしばおこる。また、社長自ら出された指示が数日後に変化する事もしばしばおこる。あまりにも真っ直ぐな性格の武井にとってはストレス以外の何物でもない。部下からも社長に言ってほしいとせがまれるが、言って通用するタイプではない。社長は超プライドの高い人である。間違った指示が後日発覚しても「そんな指示は出していない。」と言い切る人である。元々在籍しているスタッフは皆慣れたものである。しかし武井は営業部長と言う立場から、一番の影響を受け続け、二年が過ぎた。武井は悩みに悩んで転籍願いを出した。当然本音は口に出さないで転籍を願い出た。しかしそこからは想像を絶する超陰湿な逆襲を食らうことになる。武井は会社の人間関係・力関係に押しつぶされる事になった。どう抗っても所詮中間管理職の言い分が通用する世界ではない。武井は元上司に相談してみた。しかし「上司に対する営業。」と言う言葉を聞かされてしまう。中間管理職は上司にかしずいて業務を円滑に回す必要があるらしい。武井は営業一本で真っ直ぐな性格。別な言い方をすれば融通の利かない多少頑固なお馬鹿さんである。武井は悩んで悩んで悩みぬいた。武井は残された人生についても考えた。人に迷惑を掛けない体力は七十歳まで。七十歳までが人生。それ以上はおまけのようなものと考えている。即ち残り九年の人生などと考えている。そんな武井が六十一歳で決断。動き出す。