あらすじ
1980年代、「奥様パート募集」と言う言葉が新聞折り込み広告に溢れていた。それはネット社会になるほんの少し前で、電話での営業が盛んな時代。 そんな時代に武井マネージャーは営業会社の管理職についた。入社五年目のどこにでもいる普通の営業マンが管理職・マネージャーとして一つの仕事を任された。営業マンとしては人当たりが良く、並以上の成果を出してきたが、管理職としてはまだ若い。熱くバイタリティ溢れるタイプでもない。そんな武井マネージャーが体験した実話。 彼は新しい事務所の立ち上げの仕事を任された。そこに入社してきたのが澤田郁代さん。営業には程遠いタイプである。お嬢様育ちで会社勤めの経験は全く無い。開業医のお父様は、「女の子は苦労する必要無い。」と言って、大学を卒業してからもお小遣いを渡していた。お小遣いを貰いながら、自由気ままに生活していた彼女。しかも今は一部上場企業の役員の奥様である。「お仕事をがんばろう」と言う感覚はゼロ。なぜなら入社の動機がテレビドラマの社員旅行の一場面。とにかく楽しそうな場面を見て社員旅行に一度は行ってみたいと言うだけで応募してきた。完全に会社勤めをなめている。出社率も最低。何かあれば簡単に休み、簡単に遅れてくる。月にまともな出勤日数は半分程度である。熱くバイタリティ溢れるベテランマネージャーならば間違いなくクビにしているような奥様パートである。 武井マネージャーはなぜかノンビリと、ほんの少しの可能性をたよりに彼女を雇い続けた。パート同士の軋轢もゆらゆらとかわしながら。そうしているうちに少しずつ成績が向上してきた。そこでパートの中で、チーフと言う役割を与えた。少しは自覚を持って仕事をしてくれるのかと思いきや、皆と一緒にさぼるようなチーフである。しかも一番要領良くさぼるのである。 そんな澤田さんの本来の性格が少しずつ現れ始めた。初めは営業会社の表彰式を完全にバカにしていた。「会社に踊らされてバカみたいだ。」とか、「自分は会社に踊らされたりしない。」と。しかし、一度表彰台に立った時にかなり気持ちよかったらしく、本来の目立ちたがりの性格が顔を出した。 たった一度の表彰がきっかけで、以来表彰台に立つのが当たり前となり、更に全社の中で第一位の表彰状を受け取るまでに成長。とにかくおしゃべりで明るい。負けん気も強い。その半面、仕事中にやってしまった失敗談が数多い。そもそも働いた事が無い人なので、常識では考えられないような事をやらかして、周りをビックリさせるのだが、なぜか明るく良い方向に向かっていく。失敗しても悪気が無いからだろうか。 更に、違った能力が目をさました。記憶力とコミュニケーション能力がずば抜けている。それはお客様に対してだけではなく、部下に対しても発揮された。全社の中でトップセールスと言うだけではなく営業所の所長、そして講師として他の営業所からも一目置かれる存在となる。そして県内各地の営業マンの講師を務め、他県からも勉強にくる程有名になっていった。おそらく、人一倍成績の優れた人は人一倍断られた経験を持つ人。営業で悩んでいる人の心を誰よりも理解しているのだと思う。ドラマにでも出てきそうなお嬢様育ちで天然キャラの奥様がトップセールス、そしてスーパーレディーへと成長してきた25年間の笑える軌跡を本人了解のもとご紹介。