あらすじ
誰もこの手記を読む人はいないことを知りながら、綴る。
私は卑怯者だ。いつも大事なことから目を逸らす為に、空に逃げていた。
空はそんな私のことを哀れんでいただろうか。少なくとも私にとってはその空は、求めていた母親の姿そのものであり、愛に溢れ、私は満ち足りた気持ちになっていた。
ああ、今こうして握る操縦桿が、全くの他人の物であるように感じられる。
手が震えている。思考も途切れそう。ただ、降り続ける雨の音だけが真実であるかのようだ。
飛ぶ。飛ぶ。私は飛べる。
可憐を、彼女を孤独にしない為に。いや、違う。私がそうしたいのだ。今だけは、誰にも読まれないから、今だけは……卑怯者でいることを、やめたい。
この飛翔にはブレーキがない。ただ押され、誘引され、引き伸ばされ、そしてどこかで……きっと存在するであろう終着地で、翼を降ろすことだろう。
さようなら、愛すべき、雷に囚われた小人の街よ。
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夏空に惹かれた愚かな少女が、ここに記す。いずれ雨の作る大波に飲まれる、名もなき手記。
花澤 カレン。 大雨が降る、ある夏の日に。