あらすじ
“其れ”は、一人きりで居るときに部屋の片隅、暗がりの中にぼうと浮かび上がる。“現れる”のではなく『浮かび上がる』のである。 “其れ”は、暗がりの中からひっそりとこちらを伺っている。凝ッと目線を逸らさずにこちらの様子を見つめてくる。そして、消える時には、浮かび上がってきた時と同じく唐突に消える。 “其れ”は、動物に例えると『猿』に似ている。ただし、その形質のいくつかの特徴が猿と酷似しているというだけで、厳密に言えば地球上に原生するいかなる猿とも似ても似つかない。 “其れ”は暗闇からこちらを伺っている。 自分で自分の《《のみ》》を毛繕う仕草をしながらも、片時も『目線』はこちらから外すことはない。 猿によく似た毛むくじゃらの体、顔面と乳首と尻の周りにだけ毛がないのは、猿とよく似た形質である。ただし、猿と“其れ”とを分ける最も特徴的なものがある。 『目《め》』である。