あらすじ
京都北山の山奥に居を構える伊勢圭佑は、少し不思議な能力を持った古美術鑑定士である。彼の目にかかればあらゆる骨董の過去の持ち主が分かるというが、その種明かしは彼の特殊な視覚にある。この伊勢圭佑は死者の残留思念を見ることが出来るのだ。 しかしながらその秘密を知る者は少ない。 夏の終わり。8月もあと残り数日という、ある暑い日のこと。 伊勢が住む山奥の古民家に向かって、一台の黒塗りの外車が登ってくる。極端に道幅が狭い為にその運転はいかにも危なっかしい。 車から降りてきたのは、伊勢にいつも仕事を依頼してくる古美術商の吉岡。ダンディな見た目とは裏腹にコテコテの関西弁を使うこの男。彼は伊勢の特殊な能力を知る数少ない人物の一人であった。 しかし、普段なら両手に抱え切れないほどの骨董を伊勢に持ち込む吉岡が手ぶらである。不審に思った伊勢はいぶかしげに吉岡の話を聞いて見れば、なんとその日の鑑定依頼は一人の若い女性だという。 そして、吉岡が伊勢に引き合わせた女性は…… なんと、首にべっとりとついた手形の残留思念が、いままさに彼女の首を締めようとした姿でこびりついていたのだった。