あらすじ
「――わたしには、そんなことくらいしかできないけれど、それくらいしかできないからこそ、やらなきゃいけないんです」 ********* 邑(むら)の「悪と汚点の生き残り」として長年さげすまれてきた「きよ香」に全力の腹パンをくらったにもかかわらず、自身の妻にと望んだのは、国の二大権力の一つ、赤玉(せきぎょく)信仰の最高峰、瓊高臼(にこううす)山の最高位にその身を置く蔡水麒(さいすいき)だった。 月人の貴種と邑人との混血として生まれ落ちた水麒は、革命軍側にその身をおいていた。自らの責務を果たすため、水麒はきよ香の住む邑を訪れ、そこでふたりは恋におち、革命・簒奪・異国との戦争終結を経て結ばれる事となったのである。 ――しかし、この邑と、統治側の月人。寿命も容姿も繁殖形態も、なにもかもが盛大に異なっていたのである。 異文化の、しかも最高権力者の妻という立場に突如として放り込まれものの、きよ香は一介の邑娘に過ぎず、かろうじて得意と言えるのは「お料理」だけ。 しあわせになるためには、価値観、考え方、文化に肉体のつくりもまるで違う人々のことを知り、なじみ、その上で自分達のことを理解し受け入れてもらわなくてはならない。難しいことだけれどなんとかがんばろうと奮起するきよ香だったが、そんななか発覚したのは、まさかの「不老長寿の月人は、絶飲食でも数十年は死なず、ゆえにその食文化がおそろしく貧弱で調理技術が残念無念」という衝撃の事実だったのである。 ささやかだけれど真心のこもったきよ香のお料理に、やがて水麒たちに打ち倒された先朝の皇帝も、その心をひらいてゆくことになる……。 ※登場人物紹介は、ラストエピソードにおいてあります。よろしければご覧くださいませ。