あらすじ
そしておれは親父の顔を拳で殴った。 まだ弾力のある親父の顔がバチンとゴムみたいに揺れて、首が向こう側を向く。 「親父、起きろ」 そしてまた親父の横っ面を殴った。親父の顔がバウンドして反対を向く。 「おい」 また殴ったが、親父は息を吹き返すことはない。 「……しょうがねぇな」 〈本文より〉 昔、近縁の身内のお通夜の前日、寝ずの番に参加した時のことです。夜遅くに会館に到着したぼくを、その家の息子さんが迎えてくださり故人の眠る部屋まで案内してくれました。彼はぼくと一緒にその部屋に入ると、故人の枕元であぐらをかき、とつぜん故人であるお父さまの顔を殴りはじめたのです。親父起きろ、おい親父、勇嗣くんが来てくれたぞ、おい親父、起きねぇのか、しょうがねぇなまったく、と。ぼくはその光景に圧倒されながら、きっといつかこのことを小説にするのだろうと思いました。