あらすじ
カドカワ読書タイム短編児童小説コンテスト 「児童向け恋愛小説(溺愛)」部門応募作.。 いじめられっこの小学六年生の私の元に現れた青鬼。美しい顔をした美少年だ。 大切な記憶、自分自身を取り戻すため、ある目的があって青鬼はこの世界にやってきたらしい。 小学校に転校してきて、鬼の腕力、知力でいじめっこを制裁してくれる。 おかげで私はいじめられなくなった。 となりにいるのが当たり前になった頃、青鬼は突如目の前から姿を消してしまう。 青鬼こと「鬼塚あおい」をだいすきになっていた私は、泣いた赤鬼の如く大切な人を失ったことに気づき、涙が止まらなかった。彼の本当の目的は? 泣いた赤鬼にかけたストーリー。 ※ネタバレ注意 【キャラクター設定】 私……主人公。ごく普通の小学六年生。いじめられっこだが、青鬼と出会い少しずつ変わる。 青鬼……人間名は鬼塚あおい。美少年のイケメン。ある目的があって大切な記憶と自分を取り戻すために来たらしい。怪力と頭脳明晰な鬼だが、見た目は妖精や天使のようだ。 杏里……主人公をいじめる大人びたクラスメイト。美人系小学生。 赤井先生……担任の教師。若手イケメン。杏里が本気で好きになったが、結婚が決まってしまう。教科書の泣いた赤鬼の話とかけて結婚することを宣言する。相手は青鬼の母親で同僚。 青鬼の母親……赤井と同じ小学校に勤める同僚であおいの母親。人間として生活しているシングルマザー。夫は亡くなっている。人間として生活しており、鬼塚と名乗っているが実は鬼。ストーカーから赤井を助けたのがきっかけでプロポーズされる。 赤井のストーカー……同僚の小学校教師。赤井のことが好きすぎて、ふりむいてもらえず、いやがらせをしてくる。 【長編にした際のプロット】 目の前に現れた美しい髪をなびかせた少年。 一見人間なのだけれど―― 人間にないはずのつのがある。 「あなた、何者?」 「俺は鬼だ。ちなみに青鬼」 「はぁ?」意味が分からない。 「あなたにつかまったら、何かされるの?」 「命は奪わないから安心しろ。実は、人間としてこの世界でしばらく生活することになった。協力してほしい」 「なんで私が?」 「俺はある目的があって、ここへ来た。自分を取り戻すために、この世界で役に立たなければ大切な記憶は戻らない。協力を頼む」 「嫌だと言ったら?」 「命の保証はない」 恐ろしさと驚きと信じられない気持ちが入り乱れる。 目の前で青鬼の姿から普通の人間となった美少年のような鬼は、つのが消滅した。 「おまえの小学校で人間に役立つことをすることが俺の第一歩だ。力は人一倍あるからいじめる奴からおまえを守ることができるだろ」 見た感じ、美しいだけで筋肉は特別あるようには思わないけれど、本当に強いのだろうか? 私は小学校6年生だが、5年生の頃からいじめられていた。 「俺、鬼だから、怖い者なんてないし。人間よりずっと腕力あるからさ。ちなみに頭脳も発達してるから、同じ歳の小学生なんかよりずっと知恵は働くし」 美しい顔をした鬼は青色を基調とした洋服を着こなし、小学生らしいふるまいをする。 早速、私が小学校に登校すると、泥だらけのボールを投げつけられた。いつもどんくさい私はここで顔に当てられる。泥だらけのボールがぶつかり、着ている洋服を泥だらけにされる。しかし、今日は違う。ドッジボールを瞬時にキャッチした青鬼は勢いよく投げ返す。投げてきた意地悪な男子の顔にぶつかる。男子の顔が一瞬歪み、洋服が泥だらけになっていた。素早く、重く早いボールを投げることができるらしい。 「本当はボールを当てるだけで殺せる威力もあるんだけどね」 怖いことを口にするあたり、鬼なのだと思う。 普通の転校生として青鬼は紹介された。正体を知っているのは私のみ。 「鬼塚あおいです」ってしれっとしている。あおいって女の子みたいな名前だなと思う。よく見ると、顔も女の子みたいだ。 鬼の印象とはだいぶかけ離れていた。どちらかというと、天使とか妖精のほうが顔立ちとしては近いかもしれない。 本当は鬼なのに、微塵もそんな様子は見せない。普通の人間よりもある意味普通に生活してとけこんでいるように思う。女子たちは顔立ちがきれいなので、キャーキャーと黄色い声を上げる。仲良くなりたいらしく、あおいに話しかける女子が大勢いた。 女子のいじめっこの杏里。自信家で美人だ。いつも私をいじめることが趣味のような人間。 「君は担任の赤井先生が好きなんだろ。マイナスな印象は自分の首を絞めることになるんじゃないか?」 青鬼の目が怖い。でも、どうしてそんなに優しくしてくれるの? やっぱり大切な記憶を取り戻すためなのかな。 青鬼こと鬼塚あおいのおかげで、いつのまにかいじめはなくなった。 いつもそばにいてくれる青鬼のことがとても大切な存在だと感じるようになった。 友達がいない私の一番の友達になってくれた。 いつも隣で笑っていていてくれる。 「なぜ、そんなに優しくしてくれるの?」 「俺は、ある大切なことがあって、記憶を預けて潜入した。君には以前お世話になったし、この小学校に転校することと引き換えに記憶は一部ないんだ」 「いじめられなくなったらいなくなっちゃうの?」 「どうかな。人間の世界は思ったより面白い。鬼をやるよりもずっと面白い。だから、もっと困っている人がいたら、俺が助けられたらいいなぁ」 「私のそばからいなくなっちゃうの?」 「さぁ、どうかな」 「さびしいよ。ずっとそばにいて」 こんなセリフをストレートに言っちゃうなんて、恥ずかしい。顔が真っ赤になる。私は赤鬼みたいな赤井顔をしているかもしれない。 担任の赤井先生が国語の時間に「泣いた赤鬼」という話の解説をした。 赤井先生は若手でとてもカッコいい感じの若い先生で、生徒に人気があった。 先生の授業は女子は特に聞いている人が多いように思う。 ビジュアルに見とれているというのもあるかもしれない。 教科書には泣いた赤鬼のひとりぼっちの姿の影絵が描かれていた。 「泣いた赤鬼っていう話を今日はしようと思う。国語の教科書の55ページを開いて。この話は人間と仲良くしたい赤鬼の幸せのために青鬼は悪者として振舞い、最後は村からいなくなるっていう話だ。赤鬼は青鬼を倒したいい鬼として人間と仲良くなれたけれど、本当の友達を失ってしまった。犠牲になってまで他人のために尽くすことができる友達って最高だよな」 一瞬どきりとする。泣いた赤鬼という話はまるで私と鬼塚あおいの関係にとてもよく似ていたからだ。 でも、私は赤鬼じゃないし、青鬼は悪者のふりをしているわけじゃないと心の中で自分自身に言い聞かせる。 「もしかして、赤鬼と青鬼が女性と男性だったらこの関係性は少し変わってくるかもしれないと思うんだ。もしかしたら、どこかに恋心があったとしたら、失った代償は違った意味でとても大きいようにも思う。もちろん、友情を失うことも代償としては大きいけどな。みんなは恋愛相手を失うのと友情を失うのはどちらが悲しいと思う?」 恋と友情どちらが大切か? 先生が問いかけた問いかけは思った以上に難しかった。 「先生ならば、どちらが悲しいですか? どちらが大切ですか?」 赤井先生を本気で好きな女子、杏里が質問する。 歳の差は10歳以上あっても、大人になれば、そんなカップルはたくさんいると豪語している自信家な杏里。たしかに大人っぽいけれど所詮は小学生。相手にされている様子は見当たらない。 「俺はよくばりだから、どっちもかな。ちなみに俺、結婚することになりました」 ちょっとあまりにも唐突な報告で口があんぐりする。 かっこいいさわやか系だとは思っていたけれど、結婚を決めるほどの相手がいるのは初耳だった。杏里は、ショックのあまり、その場で机を見つめ固まってしまった。 「先生的には子供時代なら友情を取ったと思う。大人になると、学校がないから毎日同じ歳の友達には会えなくなる。どんなに仲良かった友達でも今よりは距離は物理的にも心理的にも遠くなる。だから、恋愛のほうが大事かもしれないって思う。結婚して家族がいたら、孤独にならないしな。俺は青鬼みたいな自己犠牲精神のある人が好きだ。まさに、結婚する相手はそんな人だ。怒ると鬼のように怖いけどな」 冗談を交えながら私生活を報告してくれた。 不機嫌な気持ちは私に向けられた。先生に気に入られようといじめもあからさまじゃなかったのに、もうどうでもいいと暴力的で直接的ないじめを始めた。 「杏里、いくら失恋したからっていじめはないだろ」 事あるごとに青鬼はかばってくれる。 「何言ってるのよ。女子に人気があるからって調子に乗らないでよね」 「赤井先生はどんな女性を好きか知ってだろ? 自分を犠牲にできる青鬼みたいな人だろ」 あまりひどいことを言うと、青鬼のファンから敵視されるようになってしまうと気づいた杏里はあまり絡んでくることはなくなった。杏里は距離を置いてあまり接して来ることはなくなった。 次第にいじめられるよりもっとつらいことがあった。 鬼塚あおいとの関係が壊れてしまうことだ。 泣いた赤鬼のストーリーにあてはめると―― もちろん鬼塚あおいこと青鬼が悪者のふりをしているわけではない。悪者のふりなんてしていたら、自然とクラスに馴染めないだろう。だから、泣いた赤鬼とは違うと自分に言い聞かせる。でも、私自身は、だいぶクラスに馴染めるようになっていた。もしかしたら、物語のように、青鬼はいなくなってしまうのではないか――? 一抹の不安が襲う。だって、もとは別世界の人だから。 「やだよ、行かないで」 Tシャツの裾を引っ張る。何か少しでも繋がっていないと不安な気持ちになる。 一瞬間が空いたように思うけれど、青鬼は返事をした。 「……うん」 信じていいんだよね。嘘じゃないよね。 歯切れの悪い返事が不安をあおる。 青鬼はどこか嘘をつけない性格だということを一番理解していた。 だから、何か嘘をついているか、隠しているような気がしていた。 その後、予想は的中して青鬼はふらっと学校に来なくなってしまった。私の目の前から消えてしまった。私の瞳からは涙があふれていた。泣きはらした瞳は真っ赤になり、頬も真っ赤になっていた。まるで泣いた赤鬼だ。いまなら杏里の気持ちが手にとるようにわかる。 しばらくすると――二度と会えないかと思っていたはずの青鬼が学校に現れた。 「俺のために泣いてくれた?」 耳元でささやかれる。いたずらな笑みを浮かべている。確信犯だ。 「馬鹿、二度と会えないかと思ったんだから!!」 「寂しかったんだ?」 「そりゃそうだよ」 案外素直に言えてしまった。 再び涙が流れる。うれし涙も勝手に体が生産しているらしい。 あぁ、私ってこんなにも青鬼のことが大好きで、彼のことで頭がいっぱいになってしまったのだろうか。 ちゃかすような顔をする彼が懐かしく愛おしい。 大好きな人。大切な人。それ以上の表現の仕方が思い浮かばない。 「青鬼ってば、私と会えなくなってどう思ったの?」 「そりゃ、すきま風が吹いたかのように寒いっていうか、お前の泣きはらした顔が見えたから、すぐに会いに行かなきゃって思ったんだよ。俺が鬼を辞めるには日数がかかったからさ」 「え? 今は人間ってこと?」 「運動能力も怪力もなくなって、人間並みしか出せないけど」 「よかった。ただ、あなたがいるだけで私は幸せだから」 思わず抱きついてしまった。我ながら大胆な行動かもしれない。 思った以上に彼の胸板は筋肉がついていて、一見華奢に見えるけれど、すごく男子らしさを感じた。特別な能力なんてなくていい。ただ傍にいてほしい。 「大切な記憶って何だったの?」 「記憶は取り戻したよ。人間として生きていきたいと願った記憶だ」 「どうして?」 「母親が人間社会で人間として生きる鬼なんだ。本当の父親はもう亡くなってる。そして、新しい家族を作ることになって、人間になったんだ。でも、そのために人間社会でちゃんと見極めたかったんだ」 複雑な家庭の事情を知る。 「母親が再婚することになってさ。人間と結婚するには、家族全員が人間にならないとだめなんだ。うちの場合、俺と母親二人が人間になるための時間が必要だった。実は再婚相手が担任の赤井先生だったんだよ。人間と結婚すると大変だというのは聞いていた。再婚の事実を受け入れられなくて記憶を一時的に消してもらったんだ。そして、実際に生徒として赤井先生と接してみた。赤井先生に母親との結婚のきっかけを聞いたら、それが、まるで泣いた赤鬼みたいに母親が嫌われ者になってまで彼を守ったらしいんだ」 「どういうこと?」 「赤井先生ってルックスがいいからストーカー的な同僚女性にいやがらせを受けていたらしくて、ある時、あることないこと職場で言いふらされたらしい。同僚からは悪評がついた。そんな時、母親が彼女のことを調べて彼女に言ったらしいんだ。ストーカー行為は人としても教師としても道を外しているって。もちろん、ストーカー女は教師としても母親の悪口を言ったけれど、周囲にどう思われようと母親は屈しなかった。そんな母親を見て赤井はプロポーズしたらしい。交際0日なのにな」 新しいお父さんが赤井先生で、お母さんがこの小学校の鬼塚先生らしい。記憶を預けて様子を探りに来たらしい。 二人は以前に出会っていた。 「実は、以前傘を貸してくれただろ。それを返したかったんだ」 そんなことはすっかり忘れていた。赤い傘を誰かに貸した記憶はある。確かその時、傘を二本持っていたけれど、困った人がいたからあげてしまった。突然コンビニの前で困っている少年がいた記憶はある。同じ小学校の人かなという程度の認識だった。 「いじめを根絶するのは、青鬼の恩返しだよ」 赤い傘を差し出された。 「母親は自分が本当は鬼だということを赤井に言ったらしいんだ」 「赤井は、鬼に恋しちゃだめですか? って言ったらしい」 まっすぐに向き合う。私も赤井先生に負けていられない。気持ちを伝えたい。 「鬼に恋しちゃだめですか? もちろん人間になったあなたのことも大好きです」 青鬼はまるで赤鬼のように真っ赤に頬を染める。 もう、鬼じゃないんだけどね。