あらすじ
とある地方都市。 その端にある所謂“自称”進学校の公立高校に通う2年生の清水健太郎は背が高く、がっしりとした体格ということもあり校内でも一際目を引く存在だった。しかし、その体躯に似合わず清水は文芸部に所属している。何度か見ていれば慣れる清水を何度も、いつまで経っても目で追う同級生が二人いた。 そのうちの一人、八古匡弘は野球部に所属している。八古は、身体は小さくないものの平均的な身長と平均的な長さの腕足のせいで、球速を伸ばせず燻っていた。恵まれた体格の清水を羨ましく思い、八古と同じく野球部の髙橋侑司は移動教室の時や、教室から見える清水をいつも目で追ってしまうのだ。 そんなことは露知らず、清水は二人が見てくることが不思議で、時折中学から仲の良い柳田晴樹に「見てくる奴がいる」と愚痴を溢しているのだった。 八古と髙橋の名前も部活も知らない清水は、野球部を題材に作品を作ろうと訪れたグラウンドで、懸命に駆ける八古から目が離せなくなった。その日の夜、偶然にも八古と髙橋は清水と柳田が一緒にいるところに遭遇する。なぜ二人が一緒にいるのか、話していくうちに知ることとなった清水の学校外での活動に八古は密かに興味を持ち、柳田の提案に乗る事にした。 一方、能天気な柳田に淡い恋心を抱く髙橋は、清水にそれとなく探りを入れるのだが、清水のはっきりとしない物言いに苛立ち、あらぬ方向の勘違いをする。髙橋に好かれているとは思いもしない柳田はいつもと同じ距離感で清水と接して、髙橋との間に溝が出来てしまう。が、当の柳田は髙橋に避けられるようになった理由が分からず、ひとり悩むものの『そんなこともある』と割り切るのだった。 そんな三人のチグハグな噛み合わないやりとりを冷静に、ただ眺めるだけの八古の中に拭えない、なんとも形容し難い感情が徐々に浮かぶのだった。 恵まれていると互いに思っている八古と清水は、互いを羨み、八古は清水に拒否反応を示し、清水は八古に興味を持つのだった。清水は警戒心の強い八古を深く知ろうと、幼い子どもに接するようにゆっくりと距離を縮めていく。慣れない接し方をされ八古は戸惑うものの、なぜか拒否を出来ない。 少しずつ明かされていく仄暗い清水の過去と、寂しい八古の生い立ちはふたりを困惑させるに十分だった。 互いの知らない互いの苦労を知るにつれて、抱いている感情に浮かぶ疑問。 嫌いなはずのアイツにも、人知れぬ苦労があった。 恵まれているあいつにも、俺には分からない苦労がある。 知るのは怖い。否定出来なくなるから。 知らないのは虚しい。否定する言葉が弱くなるから。 知りたくなかった。でも知ってしまったから、“俺”は“お前”を認めるよ。