あらすじ
あらすじ: VR(ヴァーチャルリアリティ)のヘッドセットを被る。愛依(あい)の見慣れた部屋は、とたんに星々が点滅する宇宙空間に変身した。 半透明のコントローラーを手にしアクセス。目の前に一匹の黒猫が現れた。 「やあ、今夜も会えたにゃん」 硬かった表情が柔らかくなる。窓辺に座る少女、愛依は、コントローラーを手にしながら『ヴィチューバー』を自称するアストロとの会話を楽しんでいた。 (以後、ネタバレ注意) 愛依の余命は幾ばくも無い。 むろん、そんなことは医師からも両親から聞かされてはいない。でも病院への通院回数に比例するように医者の唸る声は増えている。冷たいほど無口だった父が最近はやたらと作り笑顔で構ってくる。そして母は、自分を見て時折涙ぐむ。心臓の痛み。全身を襲う怠さ。いつも眠くて仕方ない。 学校で倒れたときは覚悟した。 「自分は死ぬのか」 生きることに、それほど執着はしない。どうせ人はいつか死ぬのだ。早いか遅いかの違いだ──そんなふうに大人びて達観してみても、「寂しい」気持ちは拭えない。 「じゃあ、昨日の続きをしようにゃん」 アストロと名乗った黒猫は愛依にダンスを教える。 現実世界では躰を自由に動かせなくても、VRの世界なら可能だ。百㍍を全力疾走したって息切れひとつしない。 「特殊なステップがあるにゃん。ぼくについて来れるかにゃ」 「うん、がんばる」 アストロが愛依にダンスを教えるのは理由があった。 「もうすぐ、ぼくの星でお祭りがあるんだにゃ」 アストロは語ってくれた。自分の正体、生い立ちを。 彼は普通の生物では近づくことさえ危険な「中性子星」の皇子だったのだ。 「原子核が重力と干渉して起こる花火大会があるんにゃ。星空にキラキラと美しい花火が咲くんにゃ。それに、地殻が奏でる音楽のパフォーマンスもあるんだよ」 「わぁ、花火って綺麗だよね!」 「花火大会ではダンスコンテストも開催されるにゃ。ぼくの妃はこのコンテストで選ばれる。愛依ちゃんがコンテストで優勝したら、ぼくの妃になるんにゃ」 アストロもまた、愛依との貴重な時間を大切にしていた。彼は他の人々が割って入ることのないように、このVR空間に厳重なセキュリティ対策を施していた。彼にとって、愛依との交流は特別なものであり、彼女とのひと時は彼にとって宇宙そのものだった。 ある夜、アストロは愛依に驚くべき提案をする。 「きみの躰の寿命が地球で尽きた後は、ぜひ僕の星へ妃の候補として来て欲しいにゃん」 愛依は戸惑いながらも、彼の言葉に心を奪われた。 「わたしも黒猫さんになっちゃうの?」 「ぼくの、この躰はVRだにゃ。本当の姿はきみが星へ来てくれたら見せるにゃん」 物語は、毎夜の一時間だけ、愛依とアストロがVRを通じて交流することで進んでいく。彼らはその日あった出来事や人々との交流、そしてアストロの故郷での生活について語り合う。彼らの会話は宇宙を超えて繋がり、愛依の病気を忘れさせ、彼女に新たな希望を与えていくのだった。 登場人物: 吉沢愛依(よしざわ・あい) 年齢: 12歳 性別: 女性 特徴: 病気による弱さを抱えつつも、明るく前向きな性格を持つ少女。小説家を目指しており、物語の中で彼女の成長と希望を描きます。 アストロ 年齢: 不明(外見は黒猫でカラスのような羽が生えている) 性別: 男性 特徴: ヴィチューバーとして活動する黒猫のキャラクター。宇宙の皇子であり、愛依との交流を通じて彼女に新たな希望を与えます。 西園寺咲良(さいおんじ・さくら) 年齢: 12歳 性別: 女性 特徴: 愛依の親友であり、明るく元気な性格を持つ少女。夢の未来を描くことが得意で、愛依と一緒に学校での活動に参加します。 大場太陽(おおば・たいよう) 年齢: 12歳 性別: 男性 特徴: やんちゃで意地悪な性格を持つ少年。最初は愛依に対して敵意を持っていますが、彼女との葛藤を経て変化し、友情を育んでいきます。 山本先生 年齢: 30代前半 性別: 女性 特徴: 愛依たちのクラスの担任教師。温かく理解のある人物で、愛依の病気や夢を支えながら彼女たちを導きます。 お母さんー吉沢景子(よしざわ・けいこ) 年齢:30代後半 性別:女性 特徴:なによりも愛依を大切にし、愛依のために行動する。日昼の愛依が学校へ行ってる数時間だけ自宅近くのパン屋でパートをしている。 お父さんー吉沢修太郎(よしざわ・しゅうたろう) 年齢:40歳 性別:男性 特徴:口下手で不器用だが真面目で紳士。すらりとした容姿にスーツを羽織る姿に愛依も「ああ、だからお母さん結婚したんだ」と納得。大手の商社に勤めている。愛依のことが大好きだか本音を口にすることが苦手だった。最近は反省してスキンシップをはかろうとするが、突然手を握ったりするので愛依から気持ち悪がられている。 【序章】 愛依は病気を抱える12歳の少女。ある日、パソコンを利用した知らないSNSの存在を知りました。彼女はヴァーチャルリアリティの世界でアストロと出会います。アストロは黒猫の姿をしていました。普通の猫と少し違うのは背中にカラスのような羽が生えていること、そして、人の言葉が喋れること。もちろん『仮の姿』ですが、彼のチャーミングな容姿に惹かれるように愛依は親交を深めていきます。 【第1章】 愛依の日常: 愛依の学校生活や家族との関わりを描きながら、彼女の病気についての状況を描いていきます。秋の文化祭へ向け生徒も先生も準備に追われていましたが、愛依は病弱で休みがち。そんな孤立していた愛依にも咲良というクラスメイトが友達になりました。けれど太陽という少し乱暴な男の子からも目を付けられて嫌な思いもします。 アストロとの交際: 夜、寝る前の時間。愛依はVRヘッドセットを被り、アストロとの会話を楽しみます。インターネット(アストロは「これはインターネットを模倣した恒星間通信なんにゃ」と語る)を通じ、彼の正体や彼が住む星について知る。アストロは普通の生物では近づくことさえ危険な超重力とプラズマの大気に覆われた『中性子星』の皇子さまでした。 「このSNSのことは、みんなには内緒。セキュリティをかけてプライベート通信にしてあるにゃ。愛依と僕だけの、秘密の場所にゃん」 【第2章】 愛依の日常: 愛依は自分の余命が少ないのではないか、と疑い始めます。通院先の医者の唸りや両親の様子から、彼女は自分の病状が悪化していることを察知します。愛依は生と死、そして寂しさに向き合いながら、アストロとの交流に心の癒しを求めていきます。 ダンスのお稽古: アストロが愛依にダンスを教えます。VR空間なら愛依の躰は制約を超えて自由に動けるのです。ダンスは愛依にとって、生きる意味を見出す一つの方法となります。アストロとの特別なひと時の中で、愛依は自分の可能性を信じ始めます。愛依はアストロと一緒に『星の花火大会』で踊りたいと思うようになります。 【第3章】 友情のエピソード1: 愛依は咲良と文化祭の買い出しへ出かけます。でも、ふたりは、はじめての『デート』を楽しみます。ヴァーチャルではない、本物の街を散策するふたりの少女の交流が描かれます。 けれど疲れから、愛依は体調を崩してしまい三日間学校を休むことになりました。咲良が「ごめんなさい」とお見舞いに訪れますが、もちろん愛依は笑顔で咲良を向かい入れ「また一緒に遊びにいこう」と約束します。 アストロからのプロポーズ: 彼が語る惑星のお祭りやダンスコンテストに夢中になる愛依。アストロが驚きの提案を口にしました。 「コンテストで優勝すれば、僕の妃になることができるんにゃ」 彼は「まもなく僕の星は別の次元へ移行して地球とはコンタクト出来なくなるにゃ。僕は愛依ちゃんと離れたくない。僕の妃になって欲しいにゃ」とプロポーズします。さらに「ダンスコンテストで優勝できるように特別なステップを教える」とまで言いました。彼は本気で愛依を妻として迎えたいようです。 愛依も新たな目標を見つけ、VR空間でダンスの練習に励むのでした。 【第4章】 意地悪な男の子との葛藤: 愛依は太陽というやんちゃな男の子と衝突します。 「文化祭の準備もサボるし、体育もサボりかよ」 三日ぶりに学校へ出て来た愛依ですが体育の授業は休み。それをみて太陽が煽ります。頭にきた愛依は「だったら50㍍競争よ!」と、先生の制止も聞かず短距離走の勝負をはじめてしまいます。競争はわずかに愛依が勝ちますが、その後、グラウンドに血を吐いて倒れてしまいました。 学校の医務室へ母親が駆けつけその日は帰りましたが、次の日、太陽が真っ青な顔で、眼に涙まで浮かべて愛依に謝ってきました。 「ううん、反省してくれるならもういいの」 「おれを許してくれるのか?」 「だってクラスメイトだもん。仲良くしたいでしょ」 この件をきっかけに太陽は、愛依に対して特別な感情を抱くようになりました。 【第5章】 友情のエピソード2: ついに文化祭の当日。愛依のクラスは学習展示会を兼ねた喫茶店を開きました。多くの『お客さん』で賑わう教室で、不思議と愛依は気分が悪くなることもなく、注文されたジュースを紙コップに注ぎます。咲良がメイドさんの格好をして注文を受けにいき、太陽はジュースを教室まで運んで来ます。他の生徒たちも一丸となって文化祭は盛り上がり大成功を収めました。元気に咲良、そして太陽との関係も変化し、彼らはさらに友情を築いていきます。 星のお祭り: アストロの星での花火大会が開催されます。まだ人間のままの愛依は中性子星には行けないのでVRで参加です。アストロは約束通り『本当の姿』で現れました。彼は肉体を持たない『魂』だけの存在だったのです。ダンスパフォーマンスが開催されます。そこでアストロは愛依がいまもっとも会いたい人「大場太陽」の姿になって一緒に踊ります。必死に練習してきた特別なステップを見事にやりとげると、アストロと同じ『姿の無い』観覧車たちから拍手喝采。星空に美しい花火が咲く中、喜びと感動に包まれる空間。見事に愛依は『中性子星アストロ』で次期皇女として認められます。 しかし…… 「ねえ、アストロ。わたしね、もう少し学校のみんなと一緒に居たいんだ」 心の声を素直に打ち明ける愛依。それに対してアストロは「うん、そうだろうとおもったよ」と理解を示してくれました。アストロは黒猫の姿に戻り愛依と握手をします。 「愛依ちゃんのことは忘れない」 中性子星アストロの重力崩壊がはじまり、星はパルサーの輝きとともにブラックホールへと進化していきました。 【エピローグ】 愛依の成長と新たな未来: あの日からアストロとの交流は途絶えました。でも不思議なことに愛依の病状も回復していきます。きっと「アストロが病気を治す魔法をかけてくれたんだ」と愛依は思っています。 ところが一難去ってまた一難。パパとママが喧嘩して「離婚」だと揉めます。愛依は泣きながらふたりを説得し、アストロから聞いた様々な宇宙の話をしました。特に『魂』の話はパパとママの関心を引いたようで愛依の言葉に耳を傾けてくれました。とりあえず離婚の危機は回避されました。 その後も愛依はクラスメイトたちと日々を楽しく過ごします。咲良と約束していた『デート』も果たし、バレンタインには太陽にチョコをプレゼントします。 そして彼女は、みんなは──中学生となりました。愛依は応募した新人賞に受賞し中学生ながら小説家としての道を歩み始めることになりました。そこでアストロから聞いた話をもとにSFを書いてみます。中学生とは思えない知識量に大学教授など大人たちからも話題を呼びました。 アストロとの交流は終わってしまったけれど、彼との思い出は彼女の作品に溢れ永遠に残ります。