あらすじ

高校3年生の夏。 最後の大会や青春のため時間を切り詰めてまで予定を立てる高校生も少なくはないだろう。 でも具体的な進路がない上に帰宅部の俺は今日もいつもと同じように親友の水谷 海と放課後の駐輪場で駄弁っていた。 暑い夏の日に食べるアイスや部活動の声なんて青春そのものだろう。 カラカラとスタンドを立てた自転車を漕ぎながら何でもない話をする。 片面刷りの進路希望調査書を書く時間よりも、駐輪場で駄弁る時間が俺にとっては有意義だ。 不確実な将来のことよりも、今のこの時間を大切にしたかった。 しかし次第に周りの人がおかしくなった。 俺の知らないところで俺に関する何かが確実に変わっていた。 それでも唯一変わらないでいてくれたのはやっぱり海だけだった。 「僕が海っていう名前だからなんか親近感湧くんだよね」 海は、夏休みの小旅行で訪れた海を眺めながら照れくさそうに笑ってそう言った。 果てがないと錯覚してしまうほどの青い海に晴れ渡った空。 恐ろしいほど綺麗なその景色に海が簡単に呑み込まれてしまいそうで底知れない不安に襲われた。 「翼は僕のことどう思ってる?」 深夜、旅館の一室で投げられた質問の真意は分からない。 男にも女にも見えないのに、男にも女にも見える顔。 中性的であり無性的な海の表情は消した電気のせいでよく見えなかった。 「僕ね、海に受け入れてもらえて嬉しかった」 海は夢現な様子でぼんやりと頼りないお願いを口にした。 その夜、俺はカーディガンを着て旅館を飛び出した。 スマホも持たず、着の身着のままで走った。 海は潮が満ちて、俺たちが昼間につけた足跡は全て波にさらわれていた。 いっそのこと俺のことも受け入れてほしかった。 「海」 返事をするように波が押し寄せては引いていく。 波が生きているように見えて気味が悪い。 海に手を伸ばした。 海に足を進めた。 アイツと同じ、何にでも形を変えることができる海の一部になりたかった。

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カクヨム
カクヨム2023/04/06
  • 現在の作品花が散った青い春に何の意味があるのだろうか