Synopsis
平成六年、十月。
鍵っ子のあすかは、団地の集会所の前を通りかかったとき、閉まった窓の向こうからピアノの音を聞いた。
ドから少しのぼって、また下がって、そこで切れる。四つか、五つ。
その音は、毎日四時半にだけ鳴った。
集会所には、ふだん鍵がかかっている。
管理人の沢田さんは言う。「もう何年も調律しとらん。ああなると、鳴らしても音にならん」
あすかは窓を三回たたくようになり、音の主を「四時半さん」と呼んだ。
弁当工場で働く母との、二人きりの暮らし。子ども会の誘いを断りつづける毎日。
そして冬のある日曜日、母がひとりの男の人を家に連れてくる――。
団地を出ていく少女と、四時半にだけ鳴るピアノの、秋から春までの物語。
(約8,000字・一話完結の短編です)
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