Synopsis
閉店後の書店で、水瀬紗良は一冊の本を抱いて泣いていた。
その本を書いたのは、有森遼。
三年前、デビュー作の刊行直前に事故で亡くなった新人作家。
そして、紗良が今も忘れられない恋人だった。
偶然その姿を見てしまった編集者・相沢春斗には、彼女に言えない秘密があった。
――遼の担当編集者だったこと。
そしてもう一つ。
遼が紗良へ渡したがっていた、未完の原稿を三年間も持ち続けていること。
「私が一番知りたかった遼の最後の夢を、相沢さんだけが持っていたんですね」
隠していた事実を知り、紗良は春斗を許せない。
それでも、遼が遺した原稿を持って東京を離れる。
物語の前半を書いたのは、もう会えない恋人。
その続きを書くはずだったのは、紗良自身だった。
書けば、遼を過去にしてしまう気がする。
前へ進めば、彼を置いていく気がする。
それでも紗良は、震える手でペンを取る。
そして春斗もまた、彼女を「救う」のではなく、彼女が自分の足で歩き出すまで待つことを選ぶ。
忘れることだけが、前へ進むことじゃない。
大切だった人を心に残したまま、新しい誰かを好きになってもいい。
本と原稿と五月の風がつなぐ、
喪失と再生、そしてゆっくり始まる大人の恋の物語。
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