Synopsis
街の公園から、子どもの歓声と遊具が消え去って久しい。
かつて、子どもを産むことは「命がけの博打」だった。
激しい陣痛、母体への深刻なダメージ、先天性疾患のリスク、そしてどれだけ願っても授かれない不妊の絶望。
超少子高齢化によって国家の存続が危ぶまれたとき、政府と大手製薬会社、大学病院の先端生殖医療チームが手を組んだのは、ごく自然な流れだった。
「安全で、確実で、苦痛のない出産を、すべての人へ」
掲げられたスローガンは美しく、正しく、誰も反論できなかった。
そうして街の主要施設やメディカルステーションの一角に設置されたのが、公認生体受取端末――人々が親しみと皮肉を込めて「赤ちゃん自販機」と呼ぶ無人ブースだった。
利用条件はシンプルだ。
十八歳以上の法的パートナーであること。
一度に申請できるのは一人までで、受け取りから一年間は次の申請ができないこと。
そして、他人の生体情報の不正利用や転売を防ぐため、必ず二人でブース内に入り、直に皮膚細胞を提供して生体認証を通すこと。
プライバシーが守られたブースの中で、タッチパネルを操作する。
自分たちの遺伝子を掛け合わせた「我が子」を作ることもできれば、カタログから選ぶように金髪や碧眼の美しい色素を付与することもできる。絶対音感、高度な数学的センス、穏やかな気質――課金オプションを積み重ねれば、まるで人形のように愛らしく、優秀な命が約束される。
そして、どうしても育てられなくなった親たちのために、ブースの脇にはひっそりと「公的育児委託ゲート」――通称・リサイクルポストが口を開けていた。
深夜。人目を忍んでブースの扉をくぐる夫婦の足音。
ガラス越しに温かい光を放つ機械は、果たして人類を救う慈悲のゆりかごなのか、それとも命の尊厳を売り払った果ての破滅なのか。
今日もまた、ピピッという軽快な電子音とともに、ひとつの「命」が登録される。
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