Synopsis
「あと少し早くその事を知っていたら」
人は、生きていれば幾度となくそう悔やむ瞬間が訪れる。例えば、突発的な事故に巻き込まれた時。あるいは、前触れもなく家族の死に直面した時。
「もし、そんな未来の断片だけでも先に見ることができたら――」
ただの感傷に過ぎないはずのその願いが、いつの頃からか、俺――淳田宗治(あきたそうじ)の現実となっていた。
突然頭にズキンと痛みが走る。そして、右の視界の端が、わずかに揺らぐ。
例えば、目の前の横断歩道。青信号を堂々と渡ろうとしたまさにその瞬間、脇道から猛スピードで飛び出してきたトラックが、自分の体を盛大に跳ね飛ばし、そのまま先の電柱に激突する未来が脳裏をかすめる。
宗治は、反射的に足をとめた。
――ガシャーン!
乾いた破砕音と共に、宗治が先ほどまで踏み出していたはずの空間を、制御を失った鉄の塊が狂ったような速度で通り過ぎ、目の前の電柱へと突き刺さる。巻き上がる黒煙、そして「おい、しっかりしろ!」とどこからともなく響く野次馬たちの慌ただしい怒号。
血の匂いが漂う現実の脇で、宗治は冷めた眼を向けたまま、何事もなかったかのように再び歩き出す。
まあ、言ってしまえばただそれだけの、ちょっとした未来予知だ。だが、これが案外役に立つ。この力のおかげで、俺はこれまでの人生で一度も大きな事故に遭ったことがない。それどころか、かすり傷ひとつ負うこともなくなった。
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