Synopsis
妖鬼(ようき)は、人の口からこぼれた恨みや呪いの、なれの果て。吐かれた言葉は消えず、澱み、やがて夜を喰らう化けものになる。
十七歳のハルは、声を出せない。幼いころ、たった一度の叫びで人を傷つけてから、ことばを飲みこんで生きてきた。だが妖鬼の吐く呪詛は、なぜかハルにだけ届く。まるで、この喉の奥に眠る“なにか”を、呼び覚まそうとするように。
退魔師の祖父が倒れ、同級生が闇に呑まれた夜。守れなかった悔しさが、ハルの封じてきた声を、ついに解き放つ――「あ」。たったひとつの音が、町ひとつぶんの化けものをたじろがせた。
声を代償に手にした、三つの音。あ(拒む盾)、い(断つ刃)、そして、命を喰らう禁忌の音「う」。
町の地の底には、十七年前に消えた母が囚われている。呪いの器と蔑まれてきた少女は、失った声のかわりに、たったひとつの願いを胸に、灰色の夜へ踏み出す。
――独りで抱えるな。分けあえ。
その答えにたどりつくまで、あと、どれだけの夜を越えればいいのだろう。
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