Synopsis
毎朝引ける無料のガチャからは、Nランクしか出ない。日陰の位置を半日だけ覚える。水面の高さを五分だけ記憶する。相手の呼吸を数える。千枚引いて、当たりは一枚もなかった。
前世が社畜だった代官補佐リゼット・ハルトマンは、その全部を書き留めてきた。日付、札の名、効果、持続時間、そして使い道。最後の列はほとんど空白のまま、記録帳だけが三年で指二本の厚みになった。
一方、チートスキルでこの辺境エルデン領を「救った」英雄は、鉱山を掘り尽くし川の流れを変えたあと、飽きて王都へ去っている。残されたのは枯れた坑道と、村へ迫る川と、英雄の功績報告書を根拠に課される三倍の重税だけ。
増税を通告しに来た王都の徴税官に、リゼットは一言も英雄を責めないまま、記録帳から抜いた紙を三枚だけ差し出す。
――これは、Nしか出ないガチャを三年ぶん積み上げた女が、紙一枚ずつで領地を精算していく話。
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