Synopsis
都の外れ、神楽坂の裏通りにぽつんと建つ表具屋「綾錦堂」。店主の祖父を亡くし、店を一人で切り盛りするのは十九の娘、葛城(つづら)。無愛想で、口より先に刷毛が動く女だ。
表具師の仕事は、破れた掛け軸を剥がし、裏打ちを替え、百年先まで絵を保たせること。けれどこの店に持ち込まれる品は、どういうわけか「ただの修復」では済まないものばかり。——裏打ちの層から出てきた、消されたはずの署名。水に濡れたはずなのに、絵の部分だけ無傷の掛け軸。貼り合わせた屏風の内側から聞こえるという、夜な夜なの物音。
「あやかしの仕業ですか」と青ざめる客に、つづらは刷毛を置いてぽつりと言う。
「紙は正直です。嘘をつくのは、張った人間のほう」
怪異の皮を被った人の心を、糊と刷毛で一枚ずつ剥がしていく連作見立て噺。そして店の奥の蔵に眠る、祖父が最後まで「直せなかった」という一本の掛け軸——その絵の下に隠されたものを巡る縦の糸が、やがて都そのものの古い傷へと繋がっていく。
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