Synopsis

青嶺大学の研究室の送別会で、今年、研究室から一人だけ選ばれる博士後期課程の推薦候補が発表された。 怜司が口にしたのは、私ではなく小野寺美咲の名前だった。 「今年、研究室から推薦選抜に出すのは小野寺にする」 すぐに周囲から声が上がった。 「やっぱり小野寺か。榊原先生、最近ずっと面倒見てましたもんね」 私は何も言わなかった。 送別会が終わりかけた頃、美咲が立ち上がった拍子に熱いスープを倒した。 四十日以上、何度も書き込みを重ねてきた修士論文の原稿は一瞬で濡れ、手書きの修正やメモが滲んでいく。 私が手を伸ばすより先に、怜司は美咲の手を取った。 「火傷してないか?」 美咲は目を潤ませて首を振った。 「大丈夫です……ごめんなさい。本当にわざとじゃなくて」 怜司は彼女の手を確認してから、ようやく私の論文に目を向けた。 「印刷し直せばいいだろ」 スープを吸った紙の束を数秒見つめ、私はバッグを手に取った。 「私、先に帰ります」 怜司が眉を寄せる。 「朝倉?」 足は止めなかった。 二年間続けてきた秘密の恋も、ここまででいい。 そう決めて、店を出た。

Serialization Info

Web Novel

Service languages
Syosetu wo Yomou
Syosetu wo Yomou09/09/2026
  • Current同じ研究室の学生に論文へ熱いスープをかけられたのに、指導教員でもある彼氏は真っ先に彼女の手を拭いた