Synopsis
見えないなら、色をつけろ。人間まで消される前に。
近未来。人間の身体は、もはや生まれたままのものとは限らない。
人工眼、義肢、身体拡張、AIによる認知補正。技術によって人間は、失ったものを取り戻し、生身の限界さえ越えようとしていた。
特殊部隊員・結城香織も、その恩恵を受けた一人である。人工眼と高性能義肢を備えた彼女は、アマゾンでの作戦中、「そこにいるのに認識できない敵」に部隊を壊滅させられる。
センサーは「敵はいない」と告げる。
人工眼にも映らない。
だが、仲間は目の前で殺されていく。
辛うじて生還した香織が辿り着いたのは、天才なのか変人なのかよく分からない藤井と、その家に集まる若者たち――通称カラーメイツだった。
機械いじりとなれば他人の義腕まで分解する拓海。理屈とデータで世界を見る結衣。理屈より先に身体が答えを出してしまう美咲。そして、四千八百ページの利用規約でも本当に読み始める藤井。
彼らは最先端の研究施設にいるわけではない。
食卓には味噌汁と焼き魚、その横には分解された義腕。義腕の修理には高級炊飯器の部品まで使う。庭で実験すれば梅の木を壊し、最先端の透明迷彩への対抗策を考えた末に出てきたのは、八百円の蛍光スプレーだった。
しかし、そんな彼らだからこそ、香織とは違うものを見る。
血が付けば、見えない敵にも輪郭ができる。
泥を踏めば、足跡が残る。
人が動けば、空気が動く。
ならば――見えない敵そのものを見る必要などない。
水、粉、泥、そして赤・青・黄の色素粒子。
透明だった敵は、ついに極彩色の怪物として姿を現す。
一方、世界では〈EDEN PROJECT〉が急速に広がっていた。
「身体は、あなたではありません」
病気も、老いも、障害も、肉体を捨てれば克服できる。仮想世界エデンでは、歩けなかった人が走り、海に入れなかった少年が泳ぎ、死者とさえ再会できる。
その中心にいるのが、香織の宿敵・鹿島である。
だが、エデンは単純な悪ではない。
そこで救われる人が、本当にいる。
香織自身も、失った生身の左腕と、死んだ仲間をエデンの中で取り戻してしまう。
偽物だと分かっている。
それでも、もう少しそこにいたかった。
だからこそ香織は迷う。
身体から解放されることは、人間を救うことなのか。
それとも、人間そのものを失うことなのか。
応募第1~5話では、香織とカラーメイツの出会いから、透明兵器〈ファントム〉との最初の戦いまでを描く。
ファントムを極彩色に染め上げ、香織たちは勝利する。
しかし壊れた機体から聞こえてきたのは、戦闘AIの信号ではなかった。
「痛い」
「帰りたい」
「お母さん」
そして、ノイズとして捨てられるはずだった0.001%の信号から、かすかな子守唄が聞こえる。
ファントムは、本当にただの兵器なのか。
その内部に残っているものは何なのか。
世界で三百万人以上が参加するエデンで、人間たちはどこへ行こうとしているのか。
第5話は、その大きな謎の入口で終わる。
第6話以降、香織は藤井家に加わり、カラーメイツとともに、AI、義体、記憶、人格、死者の再現など、次々と現れる未来技術の事件に関わっていく。
各事件はそれぞれ独立したSFエピソードとして楽しめる一方、その背後では鹿島とエデンの計画、ファントムに残された人間の痕跡、そして0.001%の信号の正体が少しずつ明らかになる。
本作が目指すのは、難解な未来技術を説明するだけのSFではない。
とんでもなく高度な問題を、どこか変な人間たちが、生活臭のする方法で解いていくSF漫画である。
最先端技術の横には炊飯器があり、人工知能について議論していたはずなのにプリンの話になり、世界の未来を左右する作戦で八百円のスプレーが役に立つ。
けれど、その笑いの向こうにはいつも一つの問いが残る。
技術によって身体も記憶も人格も作り替えられる時代に――
それでも人間を人間にしているものは、何なのか。
『極彩色のシンギュラリティ』は、結城香織と少し変わった仲間たちが、その答えを探して未来を駆け回る、コメディタッチの近未来SFシリーズである。
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