Synopsis
音楽は、四十年前に世界から消された。
壁で区切られた街は、どこも幸せそうに笑っている。同じ顔で、同じ拍子で、同じ言葉で。
クラッシュは、その笑顔を叩き割る。
目が見えない代わりに、音の反響で世界を"視る"男だ。壊した音を握り固めて武器にし、街を成り立たせている嘘を、片端から鳴らして回る。
ただし、代償がある。
壊すたび、彼は心をひとつ失う。
味がわからなくなった。痛みが遠くなった。色が消えた。怖いと思えなくなり、他人の涙が、空気の揺れにしか聴こえなくなった。
それでも彼は止まらない。壁の向こうに、世界で一番でかい静寂があるからだ。
――これは、誰の記憶にも残らずに消えた男の話だ。
記録したのは、隣にいた少年ひとり。
全部を失って消えた男が、最後になぜ笑えたのか。
その理由だけが、この記録に残っている。
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