Synopsis
県道拡幅に伴う緊急調査で、大学院生の相沢は、顔の造作を持たず口だけが大きく開いた異様な土製品を発見する。神社跡から出土したそれは用途不明のまま研究室に持ち込まれ、相沢が修復を担当することになる。やがて指導教員の黒木はそれを「人形ではなく、何かを入れるための器」だと指摘する。
調査に関わった人々の間で異変が起き始める。助教の戸倉は突然声を失い、皮膚が乾き崩れ始め、続いて同僚の篠原も同様に発声不能となる。原因は医学的に特定できず、器との関連も否定されるが、相沢は次第にある共通点に気づく。それは、器に触れた時間の長さに応じて異変が訪れているということだった。
さらに郷土資料から、かつてその地に「もの言わずの宮」と呼ばれる信仰があり、穴に向かって言えないことを語る習俗があったと知る。器はその「穴」を持ち運べる形にしたものだったのではないか。黒木もまた異変に侵され、最期に「隠していることをすべて器に語れ」という手順を残して死亡する。
やがて自らにも異変の兆しを感じた相沢は、実験室で器に向かい、自分の中に隠していた数々の後ろ暗い記憶や感情を語り尽くす。その中には、発見時に思わず漏らした「先生が死ねばいいのに」という言葉も含まれていた。告白を終えたとき、彼の異変は消える。
相沢は理解する。器は触れた者から順に「声」を奪うのではなく、すでに差し出された分を回収しているだけだと。最初に器へ無意識に言葉を与えた自分だけが、順番から外れていたのだ。器は再び地中に埋め戻される。だが相沢は知っている。次に掘り起こされるとき、最初に現れるのは、自分が差し出した“声”であることを。
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