Synopsis
神が与えたその耳は、世界中のあらゆる美しい音楽から、ほんの僅かな「傷」だけを容赦なく拾い上げてしまう。
人はこれをグランヴェル家の絶対的な権威と称えた。だが当の伯爵にしてみれば、それは本物の音楽を作れぬ自分への、酷く悪趣味な呪いに過ぎなかった。
愛娘の才能の限界を聴き分け、それ以上努力させぬよう温室へ閉じ込める日々。そんな半端な「はりぼての才能」に絶望していたある雨の日、伯爵は路地裏の泥底から響く、一人の孤児の歌声に耳を跳ね上げる。
音楽教育など受けていないはずの少女が紡ぐ、寸分の狂いもない「完璧な音程」。
(この娘には、底知れない器がある)
芸術の守護者としてのプライドか、それとも父親としての姑息な保身か。引き裂かれる葛藤の果てに伯爵が下した「ある選択」が、街の音楽の歴史を、そして一人の空っぽな天才の運命を狂わせていく。
――これは、全てを見抜く耳を持ちながら、何も知らない伯爵の物語。
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