Synopsis
十年、蔵の糠床をわたくしが混ぜてまいりました。ところが旦那様は仰るのです——「誰が混ぜても同じだ」。義母様に床を渡し、わたくしは蔵の外へ。
塩の加減は日の湿りで変える。押し蓋の重さは漬かり具合で足す。古漬けに回す樽は匂いで選ぶ。それを数えていたのは、わたくしの頭の中だけ。床に残るのは糠であって、いつ何をするかではございません。
一掬いも持たずに出ました。何ひとつ持ち出しておりません。ただ、ひと月後——わたくしの空樽が、同じ味になりました。
——お義母様の床は、二度と同じ味になりませんでしたわね。
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