Synopsis

聖女ユリエは、辞職の届けを出した。 十年、この神殿のことは全部ユリエがやってきた。朝の祝詞も、子どもの名づけも、街の四十二の井戸を回る順番も。 そのどれもが、婚約者ベルンハルトの采配として寄進者に報告されてきた。誰も彼女に礼を言わなかったし、誰も彼女の名を呼ばなかった。「君は強いから」と、それだけを言われ続けた。 届けは受理された。ただし、誰も本気にしていない。婚約者のベルンハルトは「どうせ君は残る」と笑った。 だからユリエは、百日かけて、ひとつずつ引き継ぐことにした。 仕事をひとりに渡すたび、帳面の線を一本消す。四十七本ある。 百日目の朝、線は全部消えた。 誰も困らない。何ひとつ滞らない。 ――ただし帳面には、四十七件ぶんの「誰から、誰へ」が残ります。 怒鳴らず、恨まず、迷惑もかけずに出ていく令嬢の話。 最後に彼女の名を呼ぶのは、彼女を「要領がいいだけ」と評した男です。

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Kakuyomu
Kakuyomu07/31/2026
  • Current引き継ぎは、あと百日で終わります