Synopsis

死んだ瞬間、人は生涯にただ一つの感情を、誰か一人に遺すことができる。 母から子へ。夫から妻へ。届くのは感情だけ。理由も、記憶も、意図も——何一つ、一緒には運ばれない。 要町久瀬は、その最後の瞬間に立ち会う仕事をしている。遺託公証人。死にゆく人の枕元で、感情が届く様子をただ見届ける役目。彼女自身は、誰からも何も受け取ったことがない。周囲はそれを「空」と呼ぶ。 ある日、久瀬は一件の公証で異変に気づく。この受取人は、既に一度、誰かから感情を受け取っている。 一人が一生に遺せる感情は、ただ一つのはずだった。 調べていくと、同じ経緯をたどって命を落とした人間が、十七年間で十一人。すべての「二度目」を公証していたのは、同一人物——久瀬が長年、上司として接してきた男だった。 彼は、隠さなかった。すべてを認め、そのうえで、静かに問い返してきた。 「これは、殺人と同じですか?」 制度に空いた穴。誰にも裁けない死の連鎖。そして、久瀬自身の過去にも、まだ触れられていない記録が眠っている——。 「なぜ」を追う先に待っているのは、犯人捜しの答えではない。問うことすら許されない、理由の届かない場所だった。

Serialization Info

Web Novel

Service languages
Kakuyomu
Kakuyomu07/24/2026
  • Current理由は、遺らない