Synopsis
人間の一日は、二十四時間しかない。
金は増やせる。物は作れる。情報は無限に生み出せる。しかし、人間が何かへ意識を向けられる時間だけは増やせない。
資本主義が衰退し、金よりも時間が価値を持つようになった社会。すべての人間は出生時に脳内チップを埋め込まれ、視覚、聴覚、体感覚を通して、何にどれだけ意識を向けたかを計測されている。
ゲームを遊んだ時間。動画を見た時間。仕事を考えた時間。恋人の言葉を思い返した時間。
たとえ画面を閉じていても、その対象について考えている限り、意識は占有され続ける。
人間の時間を奪うとは、身体を拘束することではない。その対象について、考え続けさせることである。
間宮悠人、三十一歳。
スマートフォン向けゲーム会社で、運営企画チームのリードプランナーを務めている。ログインボーナス、期間限定イベント、ランキング、失効する報酬。悠人の仕事は、ユーザーがゲームを離れられなくなる施策を考え、その意識占有時間を伸ばすことだった。
昼間は、ユーザーの時間を数字として眺める。
夜になると、自分がSNSに時間を奪われている。
そんな悠人には、同棲して二年になる恋人、高瀬真帆がいる。
交際四周年の夜。二人は同じ食卓で一時間以上を過ごしていた。しかし時間台帳によれば、その間に悠人が真帆へ意識を向けていた時間は、わずか九分だった。
仕事、三十一分。
担当ゲーム、十八分。
SNS、十四分。
高瀬真帆、九分。
一方、真帆はその日、三時間四十七分も悠人のことを考えていた。
「私のことを考えてほしいんじゃない。私といるときに、ここにいてほしかったの」
数字によって愛情の差を突きつけられた真帆は、二人の意識共有を解除する。
それまで悠人は、真帆が自分を考えた時間を愛情だとは認めていなかった。ところが、その数字が見えなくなった瞬間から、彼女が自分を考えているのか気になり始める。
同じ頃、悠人は会社から命じられる。
九十日以内に、ユーザー一人あたりの残響時間を二十分増やせ。
ゲームから離れ始めたユーザーを取り戻す仕事と、自分から離れ始めた恋人を取り戻そうとする行動。二つは、次第に同じ形を取り始める。
待たせる。不安にさせる。失うかもしれないと思わせる。そして、相手の意識に自分を残す。
長く考えることは、深く愛することなのか。
好きだから考えているのか。それとも、不安だから頭から離れないだけなのか。
企業も、恋人も、家族も、知らない誰かの投稿も、人間の限られた意識を奪い合っている。
他人の時間を奪う仕事をしていた男が、恋人の時間を取り戻そうとし、やがて自分の時間がどこにも残っていないことを知る。
これは、誰かの意識に存在し続けるための戦争と、誰のものでもない時間を取り戻すための物語。
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