Synopsis

メルツ商会の三女ロザリンドは、五年間、卓の下で兄に答えを書いた紙片を渡し続けてきた。 どの相手に幾らまで掛けで売れるか、どの街道を、どの護衛で、いつ発たせれば峠の雪に間に合うか—— 取引相手の支払い能力を格付けした「信用控《しんようびかえ》」も、隊商の編成も、関銭《せきせん》の抜け道も、すべて彼女が一人で握っていた。 だが商談の卓で兄レオに手柄を奪われ続けた末、父グスタフは「女に商いは無理だ。お前は数字を書き写していただけだ」と娘を勘当する。 晩秋の朝、ロザリンドは信用控を帳場に置いて、身一つで生家を出た。 冬、鉄環峠が雪で閉ざされる。父と兄は、彼女が残した控帳の余白の小さな三つの点の意味が読めない。 半年後、メルツ商会の隊商は一つも国境を越えられなくなっていた。 一方ロザリンドは、隣国アルゼン自由都市同盟の若き交易頭ヴィム・カルステンと、誰も拓けなかった南回りの塩谷街道を開いていた。 「五年、私はメルツ商会ではなく、あなたと商いをしていた」——卓を挟んで競い続けた商売敵は、彼女の数字の癖を、最初から見ていた。

Serialization Info

Web Novel

Service languages
Kakuyomu
Kakuyomu06/04/2026
  • Current「女に商いは無理だ」——追放された交易令嬢の生家が、半年で隊商を一つも動かせなくなった件