Synopsis
家系ラーメンを愛しすぎた男の前に、家系ラーメンが擬人化した少女が現れた。
仕事に削られるアラサー会社員の俺にとって、家系ラーメンは魂を立て直す儀式だった。ある夜、行きつけの「横浜家系 麺ノ家」で空の丼に「ずっと一緒にいたい」と呟くと、店主が言った。「食券は、もう切られた」。翌朝、台所に俺のシャツを着た少女がいた。名前はメンちゃん。家系ラーメンが擬人化した姿だった。
「朝ごはんは家系ラーメンだよ。硬め濃いめ多めだよ♡」
朝も夜もラーメンづくしの理不尽な共同生活が始まる。会社ではニンニク臭を指摘され、健康診断では要注意。それでもメンちゃんの笑顔を前に、俺は拒めない。
だが、ラーメン以外を食べた日、メンちゃんの身体が透け始める。さらに俺が別の家系ラーメン屋で「うまい」と思った瞬間、メンちゃんの髪と目の色が変わった。透けて消えるのではない。別のラーメンに上書きされる。俺を見ているのに、俺を知らない目だった。
味噌、塩、豚骨、二郎系——他のラーメン達も擬人化した少女として現れ、告げる。「最後の一杯が近い」。食べ続ければ俺の身体が壊れ、食べなければメンちゃんが消え、他の味を愛するたびにメンちゃんが別の誰かに書き換えられていく。
店主にもかつて、愛しすぎて消してしまった擬人化ラーメンがいた。その記憶の欠片が、今メンちゃんの中に流れ込んでいる。
閉店前夜、ラーメン少女達が集まり、全員の味を足してメンちゃんを救おうとする。実際にメンちゃんは安定した。透けない、揺らがない。だが目の色が琥珀から名前のない混合色に変わった。安定するが、メンちゃんではなくなる。
俺が選ぶべきは、無理して食べる一杯でも、メンちゃんを別のものに変える一杯でもない。本当に美味しいと思えて、メンちゃんがメンちゃんのままでいられる一杯だった。
全部飲み干さなくても、美味しかったことは消えない。
濃厚で、甘くて、苦くて、少し危険な、ラーメン擬人化ハードボイルドラブコメディ。
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