Synopsis
現代日本。科学捜査では説明できない怪事件が、国内外で相次いでいた。
噛み跡のない吸血死。誰もいない部屋で笑う少女人形。火の気のない焼死体。存在しないはずの証言者。願いを叶える代わりに血を奪う怪異。防犯カメラにだけ映る灰色の影。人間の犯行に見えて、怪異の痕が残る事件。怪異の仕業に見えて、あまりにも人間臭い悪意が滲む事件。
警察庁は、そうした未解明事件の一部を、灰銀のハンターと呼ばれる男・ルストに協力させていた。彼は吸血鬼、怪異、血術、古い呪いの痕跡を読むことができる、正体不明の協力者である。
事件現場には、なぜかもう一人、よく現れる男がいる。
クラウディオ。表向きは、路地裏の古い工房で人形を作る、しがない人形師。美しすぎる容姿と、腹立たしいほど鋭い観察眼を持つ男。
彼は警察に協力しているわけでもない。正義感で動くわけでもない。それなのに、怪異事件の現場へ現れては、容疑者のように疑われる。
クラウディオは、科学捜査に頼りきる警察庁の人間たちを冷たく嗤う。
「何でもかんでも科学のせいにするのが好きだな、お前たちは」
科学で見える証拠。人間が語る証言。被害者を装う犯人。善意の顔をした加害者。集団で誰かを断罪する空気。
ルストは人を信じようとし、クラウディオは人の嘘を見抜く。警察が証拠に騙され、ルストが涙に迷いかけた時、クラウディオだけが不機嫌に言う。
「触るな。そいつは怯えていない」
けれど、ルストもまた穏やかなだけの男ではない。クラウディオが無茶をした時。危険な犯人へわざと近づいた時。言葉をはぐらかした時。自分の伴侶扱いを曖昧にした時。
そしてルストは、気に入らないことがあるとすぐ噛みつく。
これはしがない人形師と灰銀のハンター。事件現場で鉢合わせるたび、二人は疑い合い、噛み合い、時に抱きしめ合いながら、夜の奥に潜む黒幕へ近づいていく。
けれど誰も知らない。クラウディオがなぜ冤罪を嫌うのか。彼がなぜ、亡くした誰かによく似た人形ばかり作っては壊すのか。そして、ルストとクラウディオの間に、数百年前、どんな夜があったのか。
これは、犯人扱いされる人形師と、人を信じようとする灰銀のハンターが、怪異と人間の悪意を暴いていく物語。そして、誰も愛さないと決めた男が、長い夜の果てに、噛み跡だらけの愛を受け入れていく物語である。
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