Synopsis
夕暮れの窓辺に
そっと腰を下ろす
若かった日々は
遠い川の流れのように過ぎて
泣いた日も
笑った日も
今では同じように
柔らかな光をまとっている
庭の椿が咲き
湯のみから立つ湯気が揺れ
誰かの笑い声が
廊下の向こうから聞こえてくる
ここは豪邸ではない
思い出の詰まった故郷でもない
けれど
寒い夜に暖かく
具合の悪い朝に誰かがいて
「おはようございます」
と声をかけてくれる場所
それだけで
人はずいぶん救われる
終の棲家とは
人生の終着駅ではなく
最後にたどり着く
安心の港なのかもしれない
窓の向こうでは
今年も桜が咲く
来年も見られるだろうか
その次はどうだろう
そんなことを思いながら
今日という一日を
大切に抱きしめる
急がなくていい
競わなくていい
もう十分に歩いてきたのだから
夕焼けに染まる空を見上げ
私は静かに微笑む
ありがとう
ここまで生きてこられたことに
ありがとう
今日も誰かと同じ空を見られることに
そして
いつか訪れる夜を恐れず
穏やかな眠りにつけるよう
この小さな部屋で
私は今日も
春を待っている。
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