Synopsis
リディアーヌ・オルヴェインは、オルヴェイン公爵家の長女だった。
父からは「長女」と呼ばれ、母からは「お姉様」と呼ばれ、使用人からは「お嬢様」と呼ばれた。
婚約者である王太子もまた、彼女を名前では呼ばなかった。
それでも彼女は、不満を口にしなかった。
家のため。
妹や弟のため。
王太子のため。
未来の王太子妃として、求められる役割を果たし続けた。
けれど、呼ばれない名前は、少しずつ遠くなっていく。
日記の文字。
古い刺繍。
王宮の記録。
そこにあったはずのものが、静かに薄れていく。
そして卒業記念舞踏会の夜。
王太子から婚約破棄を告げられた彼女は、最後に一つだけ願う。
「わたくしの名前を、呼んでくださいませ」
これは、名前ではなく役割だけで呼ばれ続けた令嬢の、静かな終わりの物語。
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