Synopsis
「……うおっ」
とある夜、橋を渡っていた彼は、思わず声を漏らして立ち止まった。街灯の光は橋の両端に一つずつあるだけで、中腹はほとんど暗闇に覆われている。
その中、前方に黒いシルエットが浮かんでいるのが見えた。何だと思った次の瞬間、その影がゆらりと動いたのだ。
「あ……どうも……」
それはワイシャツ姿の中年の男だった。橋の欄干の外側、靴一足分ほどしかない細い縁に立っている。
彼の声に気づいたのだろう、男はのっそりと振り返って軽く会釈した。
彼もつられて「あ、どうも……」と会釈を返した。しかし、言葉が続かない。おそらくも何もない。どう見ても、自殺しようとしている人間の姿だった。
気づいてしまった以上、このまま通り過ぎるわけにはいかない。だが、何をどう言えばいいんだ……。
と、彼が言葉を探して黙り込んでいると、男が遠慮がちに口を開いた。
Serialization Info
Web Novel