Synopsis

冬の茶は、すぐに冷める。 けれど、冷えたのは茶ではなく、 あなたの言葉だった。 --- 「薬草遊び」 「茶飲み友達」 「役に立たない女」 笑い声の混じる広間で、 私は静かに離縁状を受け取った。 湯気は細く揺れ、 やがて見えなくなる。 まるで、 あの日の私の居場所のように。 --- あなたは知らなかった。 眠れぬ商人に、 胃を痛めた老侯に、 長旅に疲れた使節に、 どの葉を、 どの温度で、 どの順番で淹れていたかを。 知らなかった。 香りひとつで、 人の怒りが和らぐことを。 一杯の茶で、 止まりかけた交渉が動き出すことを。 --- だからあなたは捨てた。 温室を。 薬草を。 積み重ねた季節を。 「雑草だ」と笑いながら。 乾いた土の匂いだけが、 冬空に残った。 --- 翌月。 港から船が消えた。 商会は扉を閉ざし、 招待状は途絶え、 屋敷から人の気配が消えていく。 静かだった。 恐ろしいほどに。 崩壊とは、 雷のようには来ない。 誰も茶を飲みに来なくなる。 それだけで、世界は終わる。 --- 今、私は隣国の王宮にいる。 朝露を含んだミント。 眠りを守るカモミール。 月明かりに香る銀月花。 私は今日も、 誰かのために茶を淹れる。 戦を避けるために。 涙をこぼさぬために。 人が、人でいられるように。 --- 「本当の茶飲み友達ですね」 そう笑う声に、 私はようやく気づく。 大切なのは、 誰に価値を決められるかではない。 誰の心を、 温められたかだ。 --- 春の庭園。 白い湯気が空へ昇る。 もう、 この茶が冷めることはない。

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Syosetu wo Yomou
Syosetu wo Yomou05/16/2026
  • Current『お前の薬草遊びと茶飲み友達など無価値だ』と言われ離縁しました。翌月、全商会が夫との取引を止めました——私は今、隣国王宮の薬草茶室で働いています