Synopsis
プロローグ
――溺愛の系譜 ③
剣を振る音が、早朝の訓練場に乾いたリズムで響いていた。
鋭く、迷いがない。
それでいて、どこか柔らかい。
レンの動きは、いつの間にか「守られる側」のものではなくなっていた。
「……今の、無駄がないな」
少し離れた位置から、別隊所属の騎士が感心したように呟く。
レンは気づかないふりをして、剣を収めた。
視線の先には、同じように汗を拭うスコールの姿がある。
背は高く、体格もいい。
動きは大胆で、迷いがない。
けれど、レンが一歩踏み出せば、必ずその半歩前に立つ――そんな距離感だった。
「スー」
何気なく呼ぶと、スコールはすぐに振り返る。
「どうした」
「次、左から来る」
「了解」
それだけで通じる。
言葉は少なく、視線と気配だけで動ける関係。
それは、学園時代よりもさらに深い場所で結ばれた信頼だった。
王立騎士団に入団してから、二人はあえて同じ隊を選ばなかった。
同じ場所にいなくても、背中を預けられると分かっていたからだ。
報告も、説明も、必要以上にはしない。 家に帰れば――いや、帰る場所が同じであることすら、今はもう言葉にしない。
剣を握る手も、 歩幅も、 眠る前の距離も。
すべてが、当たり前のように重なっていた。
その変化に、周囲はとっくに気づいている。
ただ、誰よりも遅れて、いちばん強くそれを感じている者たちがいた。
――親、という存在だ。
レンは知らない。
自分が剣を振るたび、誰かがその背中を見て息を詰めていることを。
スコールは知っている。
それでも、もう引く気はなかった。
(俺が選んだ)
(守るって、決めた)
その想いは、まだ言葉にはならない。
けれど、態度も、距離も、視線も――すべてが答えだった。
そしてこの巻で描かれるのは、
恋人として歩き始めた二人と、
それを見送る準備を始めた親たちの物語。
溺愛は、終わらない。
形を変えて、次の世代へと受け継がれていく。
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